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□もしもの話
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女に生まれたかった。
と、思ったことは一度もない。
女は非力で、嫉妬深くて、面倒で、一方で強かで図太く、美しくて醜く、優しく恐ろしい。
良いもの、悪いもの、全部全部男より沢山持ってて、複雑だ。
手に負えない。
「いよいよですね」
「うん」
「お祝いの用意、しておきます。・・・そうですね。まぁ、暫くお忙しいでしょうから、1週間くらい後に」
「うん。楽しみ。内輪だけでね」
京子ちゃんと結婚することにした。と、
重要なことほどさらりと零すその形の良い唇を、俺はただ眺めていた。
見詰めることは出来なかった。
誕生日が良い、と言った。
彼の、20の誕生日。
酷く目出度い、節目となるその日に、どうにか抜け出す手助けをして欲しいと、俺と山本にだけ持ちかけて来た。
笹川京子。
かつてのクラスメイト。
太陽の妹。
10代目の、妻。
「断られたら、慰めてね」
「そんな、まさか」
「そう?」
10代目を選ばない奴なんて、居るものか。
「でも、俺が耐えられなくなっちゃうかも。やっぱ怖いもん。結婚とか」
「大丈夫ですよ。女は強いです。俺らより、ずっと」
「あは、そうだね」
女に生まれたかった。
と、思ったことは一度もない。
「俺が、」
「・・・」
「俺がもし、女で、10代目と結婚したいって言ったら、どうします?」
「さぁ・・・。どうするかなぁ」
暫く、思いの外真面目な顔で考え込み、
「でも、それも悪くないかもね。こんなに、尽くしてくれる君だもの」
穏やかに笑う。
「逆に俺が女で、それでもボスだったら、それこそ君と結婚出来たら良いな。きっと、うまくいくよ」
「光栄です」
「じゃ、行ってくるね」
「はい。お気をつけて」
山本の単細胞じゃそろそろ限界だろうから、俺もホールに戻らなくては。
生誕祭はもう佳境。
10代目はひらりと塀に飛び乗り、闇に消えた。
笹川京子は、10代目の妻になる。
でも、ボンゴレボスの妻にはならない。
何の、力にもならないそれは唯の枷だ。
10代目が、唯一自分の我儘で付けた鎖だ。
10代目は、俺をが女だったら妻にしても構わないと言った。
それでも、俺は男で、だから選択肢に上がる権利すら持たない。
女に生まれたかった。
と、思ったことは一度もない。
彼は、女の俺を妻にはしてくれても、俺を選んではくれない。
彼が俺を選ばないのは、俺が男だからではない。
ならせめて、
より力になれるだろうこの身体を授かったことは、唯2分の1で引き当てた幸運でしかない。
+
プロポーズ直前。『唇の上ならば』の前ですね。
獄が女で、結婚したいって言うなら、仕えてくれてるお礼にしてあげても良いよ。っていう。