コロコロ系

□勝利の条件
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「遊」
 背後から呼ばれて、リブラをキャッチしてから振り返った。
 ホテルから少しだけ離れた空き地。そのホテルの明かりを背に歩み寄って来たのは、
「ギンギン・・・」
「何やってんだ?」
「あれー見て分かんない? ボクだって偶には練習したりするんだよー」
 普段、体力も無いしと才能に任せている面は強いが、時には鍛錬を積んだりもする。遊の闘い方とて全てがただ天から与えられたものではない。
 最も、銀河達の練習量に比べたら半分にも到底満たないが、それは気合の問題ではなく単にスタイルの違いだと遊は思っている。単純に量で比較したなら、その銀河よりも王虎衆の方が更に修練を重ねて来たことだろうし(チャウシンは例外として)。

「珍しいじゃん。どうせサブだから出番ないとか言って腐ってたのに」
「今日のバトル見てたら、どうしてもね」
「お、俺に触発されてくれたのか?」
 妙に嬉しそうに言う銀河に、遊は分かっている癖にと思う。
「そうじゃなくって」
 次は、ボクが出なきゃいけないかもじゃん。
「・・・そうだな」
 今日行われた世界大会第一戦、王虎衆とのバトルが終わって、銀河率いるガンガンギャラクシーは接戦ながらも次の試合へと文字通りコマを進めた。
 しかしその最中、2戦目を闘った大鳥翼が直後に失神してしまい、とうに日が沈んだこの時間になってもまだ目を覚まさなかった。
 倒れた時か、衝撃波の所為か、少々の打撲と擦り傷を負ってはいたが、外傷はさほどではないし、病院へは入れずにホテルへ連れ帰ったのだけど。

「ねー、ギンギン」
「ん?」
「翼さぁ、このままバトル辞めないかなぁ」
「や、大丈夫だろアイツなら」
 銀河はあっさりと答える。
「そう、だよね」
 遊はこころもち俯いて、ぽつりと本音を洩らした。
「辞めてくれないかなぁ・・・」
「遊?」
 銀河が視線を落とすが、遊は顔を上げなかった。

「ボクさぁ、口では色々言ってるけど、今はもうサブメンバーでも良いかなって思ってるんだ。サブでもちゃんと代表なんだし、ギンギン達のこと近くで見られるだけでも楽しいし、サブのボクとだって代わりたい人は幾らでも居る筈だもん。それにそもそも、キョウヤが辞退しなかったら、ボクはここにすら居られなかった。あ、そしたら翼がサブだったんだよね。じゃあボクはサブにもなれなくったって別に良かった。何でキョウヤは辞退何かしたんだいや分かってるけど理解出来ない忌々しい人の気も知らないでまぁボクだってキョウヤの気持ちなんて知らないし知りたくもないけどああ本当あの代表入り決定戦の時ボクが勝てれば良かったのに折角翼を蹴落とすチャンスだったのにあの時だけで良いから後でどんなに翼から恨まれてもボクは結局世界戦で活躍出来なくてもまぐれだったんじゃないかって罵られても良いから勝ちたかったそしたら翼はどんなに無茶したくてもその機会がなかったのに!!」
「・・・」
 一息に言い切って、短く何度か息を付いた遊は今度こそ銀河を見上げる。
「翼、世界戦に出ない方が良かったのに」
「・・・そうかもな」
 今度は銀河の方が目を逸らした。

 人が変わったように相手を攻め立てる翼の、原因になる部分は今一つはっきりしない。
 少なくとも銀河には理解の及ばないものである気がした。即ち畏怖であるとか、固執であるとか。そういう類の。
 今日は結果として自滅に終わったが、決して翼が戦力外という訳ではない。どうやら余程追い詰められなければ暴走はないようだし、したらしたで強いのだ。
 しかし、あんな、自分のベイも相手のベイも、自分自身すら顧みない闘い方では、勝敗以前の問題があると銀河は思う。

「今日さあ、あ、前のキョウヤ戦でも言ってたけど、チーユンは『勝利への執着が強い方が勝つ』みたいな事言ってたじゃない?」
「ああ、そうだったかな」
 唐突に話題を変えた遊に一瞬付いて行けず、銀河の返事は曖昧なものになる。
「ボクはさ、あれは違うと思うね」
「何で?」
「だってぇ、」
 酷く皮肉の込められた笑い方をして、遊は言う。

「ギンギンが一番強いもん」

「・・・どういう、意味だよ?」
「ホントは、ギンギンさぁ、翼より、キョウヤより、正宗より、ボクより、ずっと勝敗何かどうだって良いんでしょ?」
 沈黙。
 とぼけた振りをして本当に良く見ていると思う。探られるのを嫌う翼が鬱陶しく思う訳だ。
「・・・そう、かもな」
「ギンギンはどうやったら勝てると思ってるの? ボクは、どうしたら翼に勝てた?」
「さあなぁ」
 銀河は緩慢な動作でペガシスを手に握った。
「俺は基本的に、こいつと全力でぶつかる事しか考えてないからな。楽しかったらそれで良いや」
「わぁーお格好良いー」
「そんなことねぇよ。だって、」

 結局、遊びじゃん?

「・・・キョウヤとか翼が聞いたらブチ切れしそうだね」
「あー、かもな。でも俺だって本気は本気。折角まだ子供だからな。遊びに魂かけられるから楽しいんだよ。そんで、勝ったらもっと楽しい」
「ふーん。ま、良いや」
「何処行くんだよ」
「帰るんだよ。子供が出歩いて良い時間じゃないでしょ。翼も心配だし」
「お前が言うか。それに大丈夫だって。そんな大した怪我じゃなかったし」
「うん。だから心配なんだ。もう暫く寝てて貰わなきゃ困るからね」
 きゃらきゃらと笑った遊は駆け足でホテルへ戻って行った。
 片手にひらめかされた白い錠剤は見なかった事にして、銀河もホテルへと踵を返す。
「楽しかったら良い・・・。うん。やっぱそうだよなー。だって遊び何だから」

 結局、楽しんだ者勝ちってこと。


 私の理想の勝敗観。駄目ですか。ですよね。
 まだ61話までしか放送されてませんが、時系列的には62話のその後になるかと。
 次話で銀河がダーシァンに勝って、次試合まで翼が目覚めなくて、代わりに遊が出るのが前提です(無茶苦茶)。
 遊が最後持ってたのは睡眠薬。少なくとも次の試合には出させないよって事で。

72 毎日が遊戯

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