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□赦しの灯
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「で、結局いつ言う訳」
「・・・今日、言うさ。その為に来たんだから」
 聖夜学園の広い敷地。ベンチと屋根の設えられた広場で、苦々し気に言ったなぎひこを見るりまの目は冷たい。
「今日駄目だったら本当に明日しかないわよ。会う約束取り付ける所からになるのよ」
「分かってるよ」
 初等部を卒業したなぎひこ達だったが、次の4月から急遽再びガーディアンに戻る事になった海里に仕事を引き継ぐ為、春休みに学校へ訪れていた。
 結局未だ亜夢へ自身がなでしこであると伝えられないままのなぎひこは、明後日に迫ったダンス留学に今日こそはと覚悟を決め、気持ちの整理も兼ねて約束よりも早く校門を潜った。しかし予想外の先客に出会ってしまい、冒頭に至る。

「でも、・・・やっぱりショックだろうからなぁ。怒られるのも嫌だけど、泣かれると本当困る・・・」
 ベンチに並んで座り、なぎひこは眉根を寄せて呟いた。聞いたりまは露骨に顔を顰める。
「あむも見くびられたものね」
「何が、」
「貴方何かの事で泣いたりしないわよ」
「言ってくれるじゃないか」
 互いに無表情のまま火花を散らしかけたその時、

「あ、りま、なぎひこ。2人とも早いねー」

「!?」
「あむ、久しぶり」
「って言っても1週間くらいだけどねー」
 突然の来訪に固まるなぎひこを余所に、りまと亜夢は和やかに笑い合う。
「なぎひこも久しぶり」
「あ・・・、うん・・・」
「なぎひこ? 元気ないね」
「明後日から留学しちゃうんですって」
「え!?」
「ちょ・・・っ」
「ホントなのなぎひこ! 中等部上がらないの!?」
「あ・・・うん。実は、そう、なんだけど」
「そんな、・・・寂しく、なるね」
 亜夢は目を伏せて俯いた。

「そ、それでね、あむちゃん」
「何・・・?」
「えっと・・・」
 唇を噛んだなぎひこの隣に座っていたりまが立ち上がる。
「りまちゃん・・・?」
「席、外すわ」
 さらりと言ってその場を離れた。気を使っての事だろうと、なぎひこは益々追い詰められる。
 暫し沈黙が降りて。
「なぎひこ、どうしたの?」
 先に亜夢がそれを破った。
「・・・あむちゃんは、さ」
「何?」
「月詠幾斗を家に匿ってたの、隠してた時があったでしょ?」
「え、・・・うん。そう、だね」
 思い出したようで、亜夢の眉尻が下がる。
「やっぱり、間違ってたと思う?」
 言われた亜夢は、暫くなぎひこを見詰め、それから前に向き直って虚空へ目をやった。
「・・・そう、だね。実は、あんまり悪かったとは、もう思ってないんだけど、」
 意外な告白に、なぎひこは微かに目を見開いた。
「唯世君を傷付けたのは、あたしが曖昧だった所為だと思う。幾斗が家に来た時に、いつか見付かってあたしが怒られる可能性と、ガーディアンの皆に相談して、もしかしたら幾斗が追い出されてしまう可能性と、ちゃんと考えて、それでも隠す方をあたしが選んだなら、多分結果は違った」
「・・・」
「なぎひこ、言ったでしょう。誰かの為に嘘を吐くのは悪い事じゃないけど、大変な事だよって。その通りだと思う。その『大変』を、背負ってでも幾斗を当面守りたいと思ったなら、あたしは学校休んででも幾斗に付いてるべきだったし、力付くでも唯世君を追い返すべきだったの。それでやっぱり唯世君が傷付いて、あたしが嫌われたら、それはあたしが悪くて、でも仕方ない事だと思う」
 何時の間に、彼女はこんなに変わったのだろうか。なぎひこはいっそ空恐ろしく思う。
 女の子は、もっと弱くて、優しくて、守るべきものだと、思っていたのに。
「だから、悪かったっていうか、確かに、間違ってたとは思うよ。・・・少なくともママには言うべきだったよね。幾斗、体調悪そうだったし、病院は駄目でも、ちゃんとしたとこで寝て、ちゃんとしたもの食べるべきだった」
 訥々と、亜夢は語り終える。対するなぎひこの口は益々重いものになった。自分の言葉が、こんな形で帰って来るなんて。
「・・・御免。先にロイヤルガーデン行ってるね」
 立ち上がった亜夢は逃げるように駆け出した。目の淵に涙が浮いているのが分かって、なぎひこは動けなくなってしまう。

「待って、あむ」
「・・・り、ま」
 ロイヤルガーデンへ続く小道の真ん中。立ちはだかったのはいつの間にか戻って来たりまだった。
「泣かすなんて、最低。あむ、泣かないで」
 りまは亜夢へ歩み寄って、縋るように服の裾を握る。
「とっておきの秘密、教えてあげるから」
 言ったりまは、状況にそぐわず微笑む。
「あのね、あむ」
 察したなぎひこがりまの名を叫んだ。それに驚いた亜夢が肩を跳ねさせても、りまは動じない。
「なでしこはね、」
 駆け寄ったなぎひこがりまの肩を掴んだ。しかしりまの口は未だ自由なまま、
「本当は、なぎひこなのよ」
「・・・へ?」

「りまちゃんっ!!!!!」

 どさっ、掴んだ肩をそのまま地面へ引き倒し、りまの小さな身体は簡単に拘束された。
 言葉だけなら、自分を泣き止ませる為の冗談だろうか、とか、思う余地のある亜夢だったけれど、見た事もないような怖い顔のなぎひこに、その可能性は消える。
 自分の逃げ道を潰した事にも気付けないなぎひこは、そのままりまの襟を掴み上げた。細い首が圧迫され、りまの頬には瞬間強い朱がさし込む。
「何考えてるんだ君は! こんな・・・っ」
「ちょ、や、止めてなぎひこ! りまが、」
 混乱は収まらないまま、それでも現状の異常性を見て取った亜夢がなぎひこの腕を掴む。しかし男の腕力は簡単には解けなかった。

「・・・馬鹿みたい」

 ぽつん。
 苦しげな小さな声は、それでもその空間を支配した。
「何、だ、って、」
「あむは、」
 ひゅ、と、短く、しかし強く、息を吸って、

「あむは、あんた何かとは違う! 唯世何かとは違う! あむは、こんな事くらいじゃ絶対怒らないんだから! いつまでもびくびくしちゃってばっかみたい!!」

 眼前で声を上げられ、なぎひこが思わず怯む。緩んだ腕をこじ開け、りまは無理矢理顔を上げた。
「ねぇ! そうでしょあむ!!」
「え・・・、あ、」
 突然矛先を向けられた亜夢は思わず言い淀み、しかしなぎひこが、最早りますら視界に入らない様子で項垂れているのに気付いて。出来るだけいつも通りの声で、怒ってないよと答えた。

「・・・あむちゃん、僕・・・」
「大丈夫だよ、なぎひこ。あたし、怒ってないよ?」
「でも、こんな、みっともない・・・っ」
「そんな事ないよ。あたしの事思って、悩んでくれたんだもん」
「・・・」
「ねぇ、なぎひこ。あたし、久しぶりに、なでしこに会いたいなぁ」
 なぎひこの頬へ手を滑らせ、亜夢はさらりと話題を変える。なぎひこは漸く亜夢を見上げた。その拍子にまた滴が落ちる。
「・・・あむちゃ・・・、わ、私・・・」
「一年も待ってたんだよ。会いたかった」
「ごめんなさい・・・っ」
 亜夢の用意した逃げ道にあっさりと逃げ込んだなぎひこは、なでしこの名を借りて亜夢の胸に縋って泣いた。
 みっともなくはないが大層情けないなと、痛む首を抑えたりまはどちらに妬けば良いのやらと考える。





「隠し事なんて、それ自体は大した問題じゃないのだわ。私だって知ってて黙ってた。唯世も、空海も、理事長も」
「え、唯世君知ってたの!?」
「そうだね。相馬君とりまちゃんは後からだけど、辺里君には最初に言っておいたから」
「ふーん。唯世君知ってて黙ってたんだ」
「・・・まぁ、僕の為にね」
 泣き腫らした目尻を冷やしながら、なぎひこは苦笑する。
 亜夢はどこか納得いかない様子だったけれど、背後に当人の声が聞こえたので、まぁ良いかと呟いた。


 ま じ で 原 作 納 得 行 か な か っ た ん だ ・・・!
 これは流石にマイワールドですが、それにしたって原作はもっとやりようあったと思う。
 ナチュラルに男性陣ディスって御免なさい(いつもの事)。

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