遊戯王

□今宵エデンの片隅で
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 ぱぁん、と机に叩きつけられたグラスが弾ける。
 大した勢いではなかったけれど、繊細で薄い硝子のワイングラスは、明確な意思を持ってそうされたこともあって、十代の手に柄の部分だけを残して砕け散った。

「・・・あ」
 十代が小さく息を吐く。
「割れた・・・」
 いや割っただろ今。思いつつ口には出さないで、いいよあとで片付けるから、言いながら新しいグラスを手渡す。土足で踏んだ欠片がまた砕ける音がした。
 ・・・一万以上するんだけどなこれ。

「ごめんな」
 笑いながらそう言ってグラスを受け取り、手に残った部分を床へ落とす。散ったグラスとワインの上でまた高く壊れる音がした。
 十代は珍しく酔っているようだった。いつも言動はどこかおぼつかないけれど、今日は特に酷い。

「いいんだよ。お前は何をやったっていいんだ」
「そうなの?」
 十代は面白い冗談を聞きつけたように笑う。
 さぁね、別にいいんじゃないか?
 だってお前が今まで何をやっていても、この先何をしても、僕はそれを許容する以外に何も出来ないんだから。
 そりゃあ出来れば僕の中の正義に反することはやって欲しくないけれど、十代の意思を抑えつけるのはもっと嫌だ。

 だからまぁ、少なくとも僕に対してなら何やったっていいよ。
 一脚一万以上のグラス割られたって、次も僕は僕の気に入った物を君に差し出すし、
 未成年で味音痴の君に一口幾らのワインを注いであげるし、その為には同じく未成年の僕自ら味を確かめもするし、
 僕の言葉で少しでも君の昆乱が収まるならこの強固なプライドを壊して君の全てを許容する言葉を吐いたって良い。
 君を甘やかすのはそんなに嫌いじゃないし。
 ・・・僕はもっと自己中心的な人間だった気がするんだけどなぁ。別に慈悲深くはないけど。

 見返りは欲しいけれども、それを求めることはしたくないし、別になくたって構わない。
 なくてもいいと思えること自体、幾らも見返りを得ている気がしないでもないし。
 そもそも僕は君からどれほどのものを得てきただろう。

「で、まだ飲むのか?」
 自分のグラスに半分ほど赤ワインを注ぎながら十代を見やる。
 んー、と低く呟く十代は見た感じは少しもアルコールが入っているようには見えない。
 それでも酔いが回るなら精神的にまいっているのだ。多分。

「飲ませてよ」
 口の端を歪めて笑う十代の言葉の意味を明確に汲み取って、仰せのままに、と呟いてグラスに口を付けた。続けて十代の唇へ。

 何故だか少しだけ泣きたくなったけれど、僕は泣き顔なんて誰にも見せたくなかったし、十代は僕の泣き顔なんて見たくないだろうから黙って堪えた。
 どちらかといえば泣いて欲しいのになぁ、泣いてくれないかなぁとぼんやりと考えながら胸の痛みを逃がすべくは、と短く息を付く。
 どうせこの後否応なしに泣かされるのかも知れないけど。まぁそうなったらなったで遠慮なく泣けるか。

 落ちたのか、落としたのか、十代の手から零れたグラスがカシャンと悲鳴をあげた。
 十代の意図がどちらであっても、どうせ僕は何も出来ないんだ。

 たとえあのグラスが少し先の僕だったとしても。


 今更だけどうちのサイトの十代は何様なのか。
 でも、ほら、ここまで好きになれるのも幸せかも・・・や、私だったら嫌だな(おまー)。
 二人ともザルだと思うんですがどうでしょうね。ヨハンはアルコール弱そう。
 タイトルはGARNET CROWの曲名から。

74 楽園での戯れ

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