遊戯王

□救いと絶望を
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「何故こんなことをする、藤原!? 捕らえられた人々を解放し、記憶を元に戻すんだ!!」
「俺はダークネスの世界と一体化することで分かったんだよ。ダークネスの世界には勝者も敗者もない。寂しさも苦しみもない」

 吹雪の問いに、答えにならない言葉を応えて(だって何故なんてどの口が)、ちらりと俺はまだ恐れているなと思った。
 勝敗を決めることを、孤立することを、苦しむことを。

「これで彼等は、自らの存在を、記憶を消し、全てから解放された。悩む者よ、苦しむ者よ、悲しむ者よ、全てを認めよう。俺がその心の闇を受け止めてやる。ダークネスと、一つになるのだ!!」

 本当に悩み、苦しみ、悲しんで、認められたかったのは誰?
 誰が、誰にそれを望んだ?

「さぁ吹雪、お前の心の闇も見せてみろ。俺が受け止めてやる」
「僕は負けない! 希望を捨てない! 人の可能性をお前に教えてやる! このデュエルに勝ち、彼等を、そして、お前をダークネスから救ってやる!!」

 言葉を遠く聞きながら、深く、深く吹雪の闇へ潜る。
 吹雪が密かに抱えるたくさんの痛みの奥底に、その根源にそっと指を伸ばした。
 ゆっくり、浸すように触れる。

「ありがとう、藤原。君がどう変わろうと、生きていてくれて」

 何を、言ってるの?

「すまなかった。藤原」
「なに・・・?」

 幻映のそれから、動揺が伝わるようだった。

「ずっと、謝りたかった。あの時・・・、あの時君を救ってやれなかった。だが、今度は僕も一緒だ」

 それはずっと欲しかったものだったかも知れない。
 けれど俺には受け取り方が分からなかった。

「それで皆を救えるなら、それが僕にとっての勝利だ」

 誰かの為に自分を犠牲にするなんてそんなの勝利じゃない。
 欲しい物を掴めない腕なんて要らない。
 だって俺は吹雪にとって結局どうでもいい人間だったのでしょう?
 吹雪が掴んでおきたかったのは俺じゃあないでしょう?
 なのにどうしてそんな風に笑うの!?

「さぁ、一緒に行こう藤原」

 待って、待ってよ。どうして俺が揺らいでいる?
 吹雪だって俺にとってどうだっていい筈でしょう?
 だって俺の感情は既にダークネスの中だ。迷いも恐れも全て。
 なのに、どうしていつもお前だけが・・・。

 吹雪の手が、伸びる。
 それは、本当に、そう本当に雪みたいに真っ白な『救い』に見えて、

「君も、僕のかけがえのない絆の一人。すまなかった」

 すっと思考が途切れた。
 というより、それまでの想いが文字通り消えた。
 深くため息を付きたいような少し蟠る空気だけ胸の内に残して。

 『君も』・・・ね。
 やっぱりお前はいつだってそうなんだ吹雪。

「だが、これからは一緒だ」

 ごめんねもう聞こえないや。
 あーあ、ほんと、馬鹿だなぁ吹雪は。

( 吹雪、これがお前の心の闇か )

 お前はまだそうやってお前を苦しめ続ける俺を友達だと思ってくれてて(それ故苦しんでいる訳だが)、どこまでも憎い筈の俺を、その身と引き換えにでも救おうとしてくれて、
 そしてまだ、この期に及んで俺を友達としか思ってないのだと残酷な言葉を叩きつけて、それで俺が救えるかも知れないと思い込んでやがる。

 だから俺もお前にあげよう。
 救いと絶望を、同時にお前に届けよう。
 それは或いは救いのような絶望で、
 絶望のような救いだ。

 だって、俺達が一緒になるにはもう『これ』しかないのだもの。

「――― このデュエルに勝ち、彼等を、」
「そして俺をダークネスから救ってやる・・・ってか?」

 救いはどちらにとってのものなのか。あぁそんなこと、本当は言うまでもない。
 だって俺は負けてたんだ最初から。
 だから敗北のない勝利がこんなに甘い。

「さっさと終わりにしよう」

 分かってしまった。あぁもうたくさんだ。

「目ざわりだ・・・消えろ」

 ・・・ねぇ、誰が?

 吹雪は、『吹雪』である全てを手放して、吹雪ではない全てから解放されてダークネスと一つになる。
 吹雪を求め続けた俺の手は届いた瞬間空を切った。

 あはは、本当やってること滅茶苦茶。俺ってば本当は頭悪いのかなぁ。
 いやいや、そんな訳ないね。ダークネスは全知だもの。
 あ、じゃあもしかして俺気付いちゃってるのかな。

 たとえ吹雪がダークネスと一体になっても、俺のものにはならないこと。
 俺が、吹雪を世界から奪い取るそれは、同時に俺ではない何かに奪われてしまうこと。

 吹雪さえ連れて行ければそれでと、もう長いことそれだけを思っていたのに。
 本当の意味で俺達が一緒になることは初めから有り得なかったんだよね。
 そして俺は同じ時からそれを分かっていたよね。
 深い絶望は、やはり大いなる闇に溶けて。

 あぁ、これで俺は無敵だ。

 失うものなど、何もない。
 その代わりに得るものもなくなってしまったけれど。

「さぁ、最後の戦いを始めようか」

 でも、だから、あと一度、どうしたって負けられないんだ。
 邪魔なんてさせない。せめてこの想いだけは歪ませない。
 そう。これだけだ。すなわち、

 殺したいほど愛していると。


 175話より藤原side
 最初から吹雪さんはカイザーが好きだったんだものね、という話。
 大いなるとか世界とか言ってめかぶの世界なんてどうせお前ら3人でしょうが、みたいな。
 どうしてもユベルと同じ匂いがする・・・。
 まぁユベルは十代>自分>その他でしたが、めかぶは自分が常に頂点だろうなと思う。
 吹雪が俺以外の誰かを好きになって幸せになるよりは、誰も好きにならないで不幸になって欲しい。

22 同時に届いたメッセージ (Short message)

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