遊戯王

□もう一度笑って
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「あーあ。間に合わなかったや」
 折角来たのになぁ。
 海岸を見下ろしながらエドは不満げに呟いた。

 デュエルアカデミアの卒業式の日、僕は随分前から決まっていた仕事があって、自分の卒業式ならまだしも、一つ上の学年のそれに無理を言ってまで出るのは不自然かなぁと何か意地みたいなものが邪魔をして、それでも早めに仕事を切り上げてヘリを飛ばして、なのにアカデミアへ降り立ったのはもう日が暮れる頃だった。
 ホールへ行けばまだパーティーの真っ最中なのだろうけど、何となくそこへ入る気にはなれなくて。
 でもそんなこと言ってたらあいつに会う最後の機会を失ってしまうような恐怖もあって。
 結局動けないまますっかり日が暮れて、まだじっと夜風に当たっている。

 溜め息混じりにまた海岸へ目をやると、夜の海をバックにちらりと人影が見えたような気がした。
「・・・?」
 卒業式の日に、こんな時間こんな場所へたった一人で?
 それを言ってしまえば自分だってそうだけれど。
 目を凝らすと、どうにかシルエットの確認出来るその影は、

「・・・十、代?」
 確かにそれは遊城十代だった。
 最後に見ておこうと、思っていたひとだった。

 立ち止まって振り向いた影にどきりとして、けれどそれが自分に向けられていないことに安堵して少し落胆して、思わず立ち上がっていた僕はその勢いのままに、

「じゅ・・・」

 うだい、
 と、言葉を続けることはしなかった。
 ぎゅうと目を閉じて手を握ってもうその姿すら目に入らないように。
 どこまでも意思に逆らおうとする足を引き摺るように動かして背を向けた。

 駄目だ。
 もう、叫んでしまう。
 でも、

 ここで声すらかけないような都合のいい人間であることが、きっと僕の望みでもある。
 彼をひたすら想っている人なんてその数も深さも僕なんて居てもいなくても同じで。
 ならせめてそう。人目を避けて出てきたのであろう彼を少々劇的な状況で見付けたからって感極まって名前を叫んだりするような面倒な人間ではないことが、僕に与えられる最高の地位ではないだろうか。
 だって僕にはそれくらいしかないから。

 例えば僕が今出て行って、明日また会うみたいにさよならを言えるならそれがいい。
 そうしたら十代はそれこそ明日また会うみたいにばいばいって言うんだろう?
 その時にもう一度笑ってくれたら、取り敢えずはもう何も要らない。
 ついでに強がりが巧いなぁと、思ってくれたらこれ以上はない。

 一途に想って馬鹿を見るのは必ずこっちだ。
 そして僕はそれでもいいとまではどうしても思えない。
 自分以外の何も必要としていない彼に、邪魔にしかならないだろう『僕』を、どうして全て捧げてしまわなければならない?

 僕だって、出来る限りは一人で生きてやりたいんだ。
 僕の為と、少しは十代の為にも。
 それでも、だ。

 何処に行くのか分からない彼と、再びまみえる日が来たならば、その時に、今でも好きだよって言える位には思い続けていられたらいい。

 背後からたっと走り出す音が聞こえて釣られるように僕も思わず走り出した。


 十エド。十代卒業に寄せて。
 何で卒業式来なかったのかなーとかぼんやり考えながら。
 エドだって充分過ぎるくらい一途。少し冷めてるのはどっちかと言えば十代の為。

 もう一度笑ってくれたらいいのにな そしたら私もおどけてみせるよ 明日また会うかのようにサヨナラ言えたなら 私を誇らしく思ってくれますか 最後に
by GC 「もう一度笑って」

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