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「綱吉君!」
「早い」
 ばん、と扉の開く音が耳に届いたので時計に目をやると23時56分。約束は0時だろ、と意識して冷たい視線を向けた。

「クフフ、いいじゃないですか。仕事じゃないんですから」
 対する骸は気にしたふうもなく、机に向かう俺に歩み寄った。
 俺は欠伸を噛み殺しながら(雲雀さん見てるとこの比喩表現嫌いになりそうだ)、自分の軽薄な発言を少しだけ後悔。

 仕事以外では週に数時間程『こちら』に現れる骸は、その半分程を俺と過ごすことに費やしている。
 やりたいこと何て幾らでもある筈だ。例えば、今、残りのもう半分を過ごしている黒曜センターへ行く回数を増やすとか。それは実に有意義だろう。骸も彼らも出来ることなら離れたくなどない筈。
 なのに未だ、三叉槍を出す訳でもなくこうして俺に執着しているのが本当に不思議で仕方がない。

 勿論相手をしてやる義理などこれっぽっちもないが(そりゃ彼には俺の為に仕事して貰ってるけど、俺の仕事だって彼らの為でもある)、骸に本気で纏わりつかれたら仕事になぞなる訳もなく。
 何より数年前に比べすっかり落ち着いた獄寺君はともかく、気まぐれにここを覗きに来る雲雀さんと骸の相性は未だに最悪としか言いようがないので彼との鉢合わせだけは極力避けたい。
 だから、緊急を除き奇数週の火曜日の午前0時から4時まで、という制約を付けたのは2ヶ月ほど前。
 勿論それは来いと言う命令ではなく来てもいいという許可。けれどこの2ヶ月、その日その時間に骸は必ずここを訪れた。
 そのある意味健気な行動に心を打たれた訳ではないが、自分で言い出したことだし、時間が分かっていれば予定も立てやすいしと、俺もその時間はなるべく空白にするよう努めていた。
 けれど、
「俺さ、今日すっごい疲れてんだよね」
 3日前に予定外の仕事が舞い込み、それ自体はあっという間に片付いたのだけど、それで当初の予定のデスクワークが減る訳もなく(幹部以下なら調整も効くのだが)、時間ばかりがかかるそれと実にほぼ丸2日格闘していた俺は純粋に寝不足で参っている訳だ。

 ともすればそのまま眠りそうな俺の前で、骸はぽんと両手を叩いてそうでした、と言った。
 文脈からしてそれは俺の言葉への肯定ではありえない。
 何、と聞き返すと至極真面目な顔をした骸が机に手を付いて俺に顔を寄せる(近い)。

「クロームが『今日はボスが疲れてるみたいだから明日にしたらどう?』って言ってきたんです」
「だから何だよ。ていうか声真似すんな。似てない。キモい」
「酷っ! ・・・ってそうじゃなくて、あのクロームがですよ! 今まで僕に意見なんてしたことなかったのに!! 僕のクロームに一体何したんですか綱吉君!!」
 何もしてないよ人聞きの悪いこと言うな。ていうか何かしたっていうならお前の方だろ絶対。大体僕のってお前のじゃねぇだろうが今更だけど。
 まぁお前とクロームはそう思ってんのかも知れないけど。

「・・・と、話がそれましたね」
 あ、それてた自覚あったんだ。
 ていうか何か本題とかあった訳?
 骸は暫く唇に指を当ててんー、と唸りながら言おうか言うまいか悩んでいたようだったが、一度小さく息を付いて顔を上げると、
「クロームが僕に意見するようになる日が来るとは思ってませんでした」
 少しだけ、不満げな声で、

「悔しいですけど感謝しますよ。ありがとうございます綱吉君」
「・・・や、いいよ別に。これっぽっちもお前の為じゃないし」
 ありがとうございます以下が分かり易く棒読みだったな今。意外と(?)嫉妬深いんだねお前。
 嫉妬っていうか、ただのヤキモチか。
 クロームに関しては少しもそんなもの必要ないだろうに。
「ま、クロームの為になったなら良かった」
 両親からの愛を疑ったことのない俺に、彼らの損失は理解出来ない。
 けれども、だから何も出来ないと言う訳ではないことも知っている。

「相変わらず綱吉君はクロームに甘いですよね」
 差別です、とか何とかぶつぶつ口の中で呟きながら、
「まぁクロームはお前と違って可愛いしね。かまいたくもなるよ」
 骸だって相当クロームには甘いし、俺より余程差別激しいだろうと思うけど。

「じゃあ今は僕にかまって下さいね!」
 君が決めた時間何だから。実に楽しそうに骸は催促した。
「・・・俺にお礼言うくらいならクロームの意思を尊重してやったらどうだよ」
 俺は今日は疲れてんだって言ってるだろ。あぁ本当クロームは優しいし良く見てるなー誰かさんと違って。
「僕の意思も尊重して下さい! かまって下さいよ!!」
 ていうかかまえって子供かお前は。知ってたけど。

 ついでに『かまってくれ』の内容も子供だったらまだ良いのだけど、残念ながら特にこいつに関してはそんな訳はなく(獄寺君辺りならそういう日もあるけれど。というか彼なら日を改めて欲しいと言えばそれで良いんだ)。
 本当御免ね京子ちゃん、と今更な詫びを入れつつ、顔だけは無駄に奇麗な骸が伸ばしてきた手を取って(あぁ、手も無駄に奇麗だったっけ)、その指先に軽く口付け、

「そうだね。他人の意思も聞き入れてこそボスだよねー」
「ですよね!」
 口を離して呟き、普段よりも好意的な態度の俺に目を輝かせる骸の前で(やっぱ子供だ)、きぃ、片手で椅子を引いて立ち上がり、

「だから今日はクロームの言葉を尊重することにするよ」

 お休み骸、とにっこり微笑み、言葉に付いて行けず一瞬固まる骸の傍らを足早に通り過ぎて部屋を出ると速攻で後ろ手に扉を閉めた。
 一瞬後にばん、と中から扉が叩かれ酷いです綱吉君! とか叫び声が聞こえてきたが、聞こえない聞こえない、と呟きながら自室へ向かう。
 さて、早く寝て明日は時間が許せばクロームとゆっくりお茶でもしようかな。


 つー様酷い。この三人だと当たり前のように綱骸と綱髑と骸髑が混在する・・・。
 一応前提は骸髑ですが、読んで楽しいのはやっぱつー様攻めかな。
 ムックに限らずつー様にお相手して頂けるのは皆2週に1回くらいです。獄辺りもうちょっと多いかも。
 タイトルはつー様のとある時間帯をお借りしているという意味。ていうかこれ何てホスト。

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