□クラリネットであいのうた
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「お疲れ様」
「・・・あら、女の子待たすなんてなってないわよ、ボス」
 皮肉たっぷりの声色で綱吉に向き直ったのは、かつて命のやりとりをしたことのある少女―――今はもう女性、と呼んだ方がすっかり相応しくなったM.Mだった。

「ごめんね、報酬はこの前の講座で?」
「えぇ、10日以内にね」
 どうにも尻尾を掴ませない敵対マフィアに奇襲をかけたいから、と綱吉が推薦したのは、復讐者から通常の(とも言い難いが)牢獄へ移され、去年解放されたと風の噂に聞いていたM.Mだった。
 だからこそ生き残ってきたのだろうが、酷く用心深いそのファミリーに毒を使うのはあまり上手くないし、直接乗り込んでボンゴレの名を出すと不当な襲撃と見なされる恐れもなくはなかったのでそれはまぁ適任で、事実全く綱吉の計画通りに事は運んだのだけれど。

「おい、口の利き方に気を付けろよ」
 しかしどうにも以前のイメージが拭えない隼人と、それに恭弥は骸の名前が出ると難色を示した。
 結局、別に構わないだろうと笑った雨と晴の守護者と、そして何より彼らが大空が譲らなかった為今日の決行に到る訳だが。
「だって別に私ボンゴレじゃないし。敬語とかダッサイし」
「てんめ・・・!」
 相変わらずのM.Mに口を挟みかけた隼人に獄寺君、と静止をかけた綱吉は眉を寄せて、
「霧の守護者がいれば君を呼ばなくても良かったんだけどね」
「・・・」
 唐突に微笑んだ綱吉に、隼人もM.Mも黙り込んだ。
 犬と、千種と、それに骸の憑坐であり霧のリングを所持していたらしいクローム髑髏という女の行方が2年ほど前から知れないことは再会した際聞かされていた。

「別に、私は報酬が貰えればそれでいいんだけどさぁ」
 漸く、といった調子で口を開いたM.Mはそれより、と言葉を続ける。
「ねぇ、このドレス地味で好みじゃないのよね。選んだのアンタ?」
 敵対マフィアのパーティーに紛れる為身に付けたモスグリーンのドレスの裾を摘まんで、変わらず物怖じしない口を利くM.Mに隼人が拳を握り、間に入った綱吉本人の手に仕方なく姿勢を正す。
「御免ね。黒曜の制服しか見てなかったから、あれのイメージが付いちゃってさ」
「何年前の話してんのよ」
 M.Mは口を尖らせるが、黒曜センターへ乗り込み彼女と、骸と戦ったのはまだたったの6年前だ(隼人はその日丁度14の誕生日だったからよく覚えている)。
 まぁ自分達の年齢からならそれは十分昔のことかも知れないが。

「じゃあお詫びっていうか、この後で良ければ1着プレゼントするよ」
「ほんと!?」
「10代目・・・」
 少し眉を寄せた隼人に、分かってるよと視線で返し、
「悪いけどあんまり時間ないからこの近くの店にしてね。現金でも良いって言うんならそれでも良いけどさ」
「でもそれは味気ないし。どうせならボスに選んで頂きたいわ」
「仰せのままに」
 M.Mの手を取り頭を下げて綱吉は笑った。

「・・・しっかし、本当化けたわねー」
 じゃあちょっと待っててね、と本部に報告の電話をかける綱吉の背中へ視線をやってしみじみと呟く。
「当時から片鱗は現わしておられたと思うけどな」
 言ってから、そう言えば彼女は死ぬ気弾も小言弾も見ないままだったからそう思うのも無理ないのか、と思い至った獄寺に、M.Mはあんたも結構化けたけどねと興味無さげに付け足した。
「いやでもほんと、よくあんなの殺そうと思ったわ私」
「骸もよく言ってたなそれは。俺も散々思ったし」
「アンタも?」
「出会い頭にちょっと・・・な」
 M.Mはへぇえと意外そうな顔をしてから、ふと微笑む。
「ここに来て歴代最強と謳われるボンゴレ10代目か・・・。そそるわぁ」
 ふふふ、と笑みを漏らすM.Mに隼人は顔を顰め、けれど確かに今の彼が動かせる金額は当時の骸などの比ではないだろうな、とぼんやりと思う。

「・・・10代目は、お前を好きにはならねーよ」
 隼人は未だイタリア語で話し続ける綱吉へ視線を戻す。
 綱吉がとうに相手を決めていることを隼人は知っていた。いや、たとえそうでなくても、
「分かってるわよ。それにそういうのはこっちから願い下げ」
 しかしM.Mは実にあっさりと白旗を上げる。

「再会した時に」
 唐突に話題を変えたM.Mへ獄寺が視線を向けた。
「目を合わせた瞬間に『人殺し』って、言われた気がしたわ」
「・・・」
 流石に鋭いな、と口には出さずに呟く。
「でも、何ていうか、嫌な感じじゃなかった。許せないとか、酷いとか、そういうのも感じたけど、責められるような気はしなかった」
 初めて会った日と違って、彼の目には非難も恐れもなく、けれども自分が人殺しなのだと実感させられて。なのに、
「・・・私には、痛いわ」
 許しなんて、今更欲しくない。たった5年閉じ込められたくらいで償ったとは思っていない。
 それでも自分で自分を許す強さはあるのだ。だからこそ自分は生きている。

「まぁ折角だから1着選んで貰うけどね。でもやっぱ付き合うなら骸ちゃんがいいわー」
 強かに6年前と同じ台詞を吐いて。
「・・・それも難しいだろ」
「流石に分かってるわよそれくらい」
「つーか、お前アネキに負けたのに全然変わんねぇんだな」
 6年前に金が全てと語った彼女を倒したのは、ビアンキの(自称)愛の力だった訳だが、どうやら彼女は相変わらずのようだと肩を竦める。
 学生時代はよく懐が寂しくて困ったものだが、それでも金にこれといって魅力を感じない隼人には、彼女の感覚は今でもよく分からないままだ(金欠だったのは後先考えずアクセサリーや煙草やダイナマイトを買い込んだ所為で、ボンゴレからの支給は決して少なくなかったが)。
「ま、1年前までずっと捕まってた訳だしな」
「失礼ね。逆に5年も捕まってたら色々考えるのよ? 今はお金が全てなんて思ってないわ」
 まぁ好きは好きだけど、と続けつつ隼人の結論に噛み付いたM.Mは、どこか遠くを見る表情でただ、と言った。

「それでも骸ちゃんを選ぶっていうのは、いけないことなのかしら?」
 目を伏せた彼女の横顔に、唐突に6年の歳月を感じた。
「・・・お前がそれでいいっつーなら、俺に言えることなんざ何もねぇよ」

 望みのない片恋はするなだなんて、口が裂けても言えやしない。


 獄とM.Mちゃんという異色の取り合わせ。M.Mちゃんとかバーズさんとかも捕まってたと思っていいんですよね?
 5年で解放は早過ぎですが、まぁお金積んだりとか、ボンゴレが手を回したりとかってことで。
 女の子だとこの子だけ未だに相手居ないんですよね・・・。まぁ基本骸←Mで。
 お題の「姫」はM.Mちゃんでありムックでもあります(えー)。

囚われの姫は大量殺人犯 (13の部屋 陸)

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