□『完全無欠』の
1ページ/1ページ

「霧の守護者就任おめでとう、骸」
「いえいえ、ボンゴレこそ晴れて10代目就任おめでとうございます」
 にこり、互いに互いには直ぐにそれと分かる作り笑いを向け合い、俺は直ぐに面白くなくなって笑顔を引っ込めた。

「嬉しくない」
「知ってます。僕だって嬉しくないですよ。クロームにあんまり無理させないで下さいね」
「させないよ・・・。っていうか、そのことなんだけど」
 今日、骸が、或いはクロームが、ボンゴレ10代目霧の守護者を就任して、彼女にはアジトの1室と霧のボンゴレリングが授けられた。
 元々一人暮らしだった獄寺君と、固定の住居を持たないクロームと、危険や効率の悪さを考慮した俺は、これからはアジトに住み込むことになる(けど設備に色々と思うところがあるので近い内に俺が新しいアジトを作ってやろうと思っている)。

 城島犬と柿本千種は、流石にというか、声はかけたけれど結局ここへは来なかった。
 それでも彼らは未だにボンゴレが保護しており、そしてクロームは俺が手元で使い、守っていく。
 骸にしてみれば弱点握らせるようなものだ。代わりにクロームの立場と生活は安定する(この世界で生きている奴に安定なんてものがあればの話だが)。

「お前、今でもマフィア嫌いなんだろ? 確かにクロームの力は大きいけど、匿うだけでもいいんだよ俺は」
 というか、そもそも仕事に使わないからって追い出したりする訳がない。
「しかしクロームはやりたがっているでしょう?」
 確かにやりたがっている。出会ったあの日に「霧の守護者として戦いたい」と言ったように。
 けれどクロームの『理由』はいつだって一つだ。
「・・・納得いかないけど、お前がやって欲しくないって言えばやらないだろ」
 骸は暫く俺から視線を外して黙っていたが、ふいに向き直って口を開いた。

「パイナップルってあるでしょう?」
「・・・? うん」
「僕ね、あれ嫌いなんですよ」
「へぇえ、凄く意外」
「そうですか? 甘いのか酸っぱいのかはっきりしないですし、筋があるし、切り分けるのも大変ですし、」
 クロームも好きじゃないと言ってますし、と理由を並べるが、骸の食の好みなんて俺の知ったことじゃない(あ、でもクロームの嫌いなものは知っておいて損はしないかな)。

「でも、一つだけ気に入ってる所があるんです」
「へぇ、何?」
「花が」
「花・・・青紫のやつだっけ?」
「えぇ。毒々しくて頂けませんよね」
 話、繋がってなくないか。
 ていうか毒々しいってお前が言うなよ。

「『完全無欠』」
「は?」
「パイナップルの花言葉は『完全無欠』なんですよ」
「・・・ふぅん」
 何でお前そんな女々しいマイナーなこと知ってんの?
 やっぱ好きなんじゃないのかよ。それとも花言葉網羅してる訳?
 うわぁどっちも凄く嫌だ(特に後者)。

「何? お前、自分が完全無欠だと思ってんの?」
「いいえ? だったら好きになる訳ないでしょう」
 ・・・話、繋がってなくないか。

「僕はね、僕のこと大好きなんですよ」
「うん。何となく分かるよ」
 マフィアなんてやってる奴は程度の違いこそあれ(早い話お前程じゃないけど)そういう奴多いしね。
 自分のこと嫌いなのにマフィアになるとか、幾らなんでも可哀想だ・・・って俺ってば久々に自虐だな。

「だから僕が持ってるものはもう要らない。僕が完全無欠だったらわざわざ花なんか好きになりません。寧ろその言葉は僕にだけ冠していればいいと思いますね」
 何だこの電波。そろそろ着いていけないんだけど俺。

「例外なんて幾らでもあるってことですよ。クロームは僕の意に反してでも僕の力になりたいと言いました」
 まぁやるなと言えばやらないでしょうけどね。
「・・・そう」
 最初っからそう言えよ。
 ていうか、これは喜ぶところなのかどうなのか。危険に晒されることが、もっと言えば早死にすることが、そのまま不幸という訳では確かにないけれど。

「でも肝心のお前はボンゴレが発展したって喜ばないだろ?」
 筋金入りのマフィア嫌いが。クロームのこともあってわざと仕事失敗したりはしないだろうけど。
 でもだからこそやりたくないこと強制するのは俺が嫌だ。
「ええまぁ。でも仕事の成功は嬉しいですよ」
 へぇ、またこれも意外。
「お前、達成感とかあるんだ」
 世界征服とか幼稚なこと言い出すからそういうのはないのかと思ってた。
 あ、でも子供の方が逆に達成感ってあるのかな。

「うーん。少し違いますね・・・。もう一つ取って置きの例外を教えてあげましょう」
 人差し指を唇の前に立てた骸は(サマになる分キモい)、にこりと微笑んで真っ直ぐに俺を見て、

「綱吉君、僕は君が好きです」

「は、」
 ・・・・・・・・・・・・い?

「ですので、僕も仕事手伝ってあげますよ。クロームが疲れない程度にね」
 恩着せがましく語る骸の言葉は少しも耳に入らず、それに気付いた骸はまた満足そうに笑った。
「僕も、貴方の守護者ですから」

 いやいやいや、今度こそ話繋がってないだろ何言い出すのお前。

 ようやく言い返そうとした時には、俺の前にはきょとんとした表情のクロームが残されていた。
 まぁ、嫌われてるよりは好かれてる方がマシ・・・じゃないよなぁ。
 ・・・あぁ(予想はしていなかった訳でないが覚悟は全くしてなかったのに)、

 結局、こいつもかよ。


 「パイナップルを取り入れた上でシリアス」という自分課題。流石に無茶でした(うん)。
 そもそもムックは77で「完全無欠ですからね!」とか言ってましたけどね・・・。
 別種ですがパイナップルリリーという花もあって、そちらも花言葉は「完璧、完全」。これの別名である「ユーコミス」はギリシャ語で「美しい髪の毛」という意味だそうです(笑)。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ