□ここにいる強さ
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 俺の初めての人は彼女ではなかった。
 初めての女の人も彼女ではなかった。

「何してるの、クローム」

 昨晩から続く雨、今朝になって少し和らいだ、けれどもそれなりの勢いを保って靄のかかったベランダで、
 薄いシャツ一枚を纏ったクローム髑髏は、無防備にその身体を雨ざらしにしていた。

「ボス、起きたの?」
「うん。たった今ね」
 衣服を身に付けた綱吉は、寒いでしょ、と言いながら歩み寄り、すっかり冷えた細い腕を引く。クロームはあっさりとそれに従い綱吉の腕に収まった。
 雨に打たれた為だけではなく、クロームの顔は青白い。
 綱吉はクロームを抱き上げ一端ベッドへ足を向けたが、そこへ放られたままの派手な血痕を思い出してソファへと方向を変え、クロームを抱いたままでそこへ腰を下ろした。
「痛い?」
「すこし・・・」
 ひくりと足を動かしたクロームが頷く。

 昨夜、綱吉はクロームを抱いた。
 クロームは抱かれるのは初めてで、綱吉の方は行為自体はそれなりに回数を重ねていたけれど女を抱いたのは初めてだった。
 何故だったかはよく分からない。特に必然だとは感じなかった。
 けれども、仮眠していた綱吉に、クロームが任務終了の報告をして、半身を起こした綱吉と真っ直ぐに目が合って、綱吉がいつもそうするようにクロームの頭を撫でてやって、それから、

 それから、その手でクロームを抱き寄せて、口付けたのを、おかしいとは互いに思わなかった。

「クローム、何を考えてるの?」
 どこか遠くを眺めているようなクロームの、濡れて張り付く前髪を払ってやりながら綱吉は問いかける。

「・・・骸のこと?」

 嫉妬、ではない。
 (どちらかに対する)少しの哀れみと、(ふたりに対する)慈愛と。

 クロームはいつでも骸のことを考えていて、それでも昨晩、俺に揺さぶられながらむくろさま、とか口走ったりしなかった辺りやっぱり彼女は強いんだろう。
 まぁ、俺だって彼やこの娘を抱きながら彼女の名を呼んだりはしないけれど。

「半分、あたり」
「半分?」
「うん」
 クロームは猫を思わせる動作で綱吉の胸に頬を擦り付けた。

「あとは、ボスのこと」

 俺も、クロームも、一番好きな人にはうまく手が届かない(いや、俺はただ掴む勇気がないだけだ)。
 でも、
 代わりではなかった。確かに。
 ならば綱吉はクロームを、そしてクロームもまた綱吉を、

「私は、骸様のからだになって、霧の守護者になって、ボスを護るひとになった」
 雨は止んでいた。
「私は骸様を好きになって、ボスを好きになった」
 窓は開け放したままだった。
「でも私は、骸様が一番すき」
 薄い靄が、這うように部屋へ流れ、
「でも、いつか、選べなくなったら」
 さらさらと、霧が漂う。
「いちばんが、ふたつになったら・・・」

「そしたら、それでも、クロームの好きな方を選べばいい」

 綱吉の言葉にクロームは顔を上げた。震えは止まっていた。
 選べばいい。
( 選ばなければいけない )
( 選べなければいけない )

 ボンゴレに必要なのはボスを妄信する駒じゃない。
 ただ、自分に大切なものを考え、選び、見失わないこと。
 それが、優しくて残酷な、ここに要る(居る)強さ。

「すきだよ。クローム、だから、俺を信じていてね」
「うん」
 優しくクロームを抱き寄せた綱吉の顔を見上げながら、クロームもゆるく微笑む。

 暖かな腕。打ち寄せる鼓動。濡れた身体と、包む霧。

 呼び覚ます、唯一確かな母の記憶。
 ぬるま水に浸り、光を待つ時間。
 『クローム髑髏』には、もはや母はないけれど、ここも確かな安息の場所。

 クロームは自分で選ばなければならない。
 だから、綱吉を信じることと、彼を選ぶこととの違いを、その腕の中でただじっと、祈るように想っていた。


 「綱髑で微エロ。ツナ攻め攻め」というリクを頂いて書きました。
 エロ皆無だ・・・。これじゃ唯の前提だ。しかもうちのつー様女の子には甘いから全然攻めっぽくない。
 貞操観念が甘い、というか。ムックも京子ちゃんもあんまり気にしない人だから深く考えずにヤっちゃったけど、お互いそこまで行為に重点置いてないと思います。うちのクローム子供出来ないし(・・・)。
 お待たせしたのにリク添えてなくてすいません。リクエストありがとうございました!

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