□みなぎさん誕祝
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 少し特異な世界に身を置く拙者だけれど、思い返せば好きだったと思える女の子の一人や二人、いないこともない。
 けれども、やはりこの世界は特異で、そこで一緒に生きてくれなどと言えるほど強い想いは持てなかったし、増して拙者がこの世界を捨ててまで求める人などいるはずもなかった。
 まぁ拙者はまだ14歳なのだしそれに問題があるとも特に思わず、寧ろ鍛練に打ち込まねばならないこの時期にそんな感情は邪魔だとすら思っていた。
 だから、拙者は今まで誰かに好きだと告げたいだなんて思ったこともなかったのだけど。
 だけど、

「やめとけ」
 それだけで死ねそうな恥辱を堪えつつ暴露したのに、親方様は実にあっさりと、たったの4文字で拙者の気持ちを切って捨てた。
「・・・何故、ですか」
「お前とあいつは釣り合わねぇからだ」
 流石の親方様もこれは想定外だろうと思って今まで随分相談を躊躇っていたのに、親方様には驚きも呆れも怒りも何もない。本当にいつも通りの言葉のトーン。けれどもだからこそ軽く吐き出された言葉の内容は、それだけで拙者の覚悟を潰しそうになった。
「そんなこと、」
 分かっています。それでも、ただ伝えたいだけで、そう言い返す前に、親方様はお前は分かってねぇよ、と諭すように仰った。

「あいつも多分お前を好きだがなぁ・・・。なんつーかな、あいつの好きなお前は、あいつのことを好きじゃねぇよ」
「・・・?」
 よく意味が掴めなかったけれど、拙者の想いが、それと彼までが卑下されたように感じて、
 親方様の口があまり良くないのは知り過ぎる程に知っている。それを差し引いても素晴らしいお方であることも。
 けれども、だ。
 本当に、自分でも理解出来ないくらい、それは譲れなくて、

 親方様は、もしかしたら拙者よりも拙者のことを知っているのかも知れない。けれど貴方に彼の何が、
 ・・・いや、それこそ拙者よりも分かっているに決まっている。
 だって、この方は彼の、
「しかし拙者は、沢田殿のことを・・・!」

「バジル君」

 凛とした声が拙者を呼び、拙者の親方様への初の反逆は未遂に終わった。まだ自身が『親方様』だと明かしたくないと言っていた親方様は肩を竦めてその場を後にする。沢田殿はそれを見て微かに怪訝な表情を見せたが何も言わなかった。
「さ、わだ、どの・・・」
 ばくばくと心臓が痛い。まさか聞かれてはいないだろうけれど、

「どうしたの? 疲れた?」
「あ、い・・・いいえっ! 拙者はまだ大丈夫です!!」
 何とも言えない罪悪感からしどろもどろな答えになる。別に悪いことを考えていた訳ではないけれど。
 修行の合間、束の間の休息。常に文字通り死ぬ気で拙者と拳を合わせ続けた彼はよく見ると傷だらけで。
 この小さな身体でと失礼にも彼を哀れに思ってしまった拙者に気付いてか、沢田殿は苦笑交じりに微笑んだ。
「そうだよね。吹っ飛ばされてるのは俺の方だし」
「そんな・・・」
 そういう意味では、ないのに。

「ごめんね」

 謝る所なのか迷っていた拙者に、何故か沢田殿が謝罪する。
「何がです。沢田殿は何も・・・」
 それこそ、容赦なくぶん殴っているのは自分の方なのだから(だって手加減していてはそろそろ押し負けてしまいかねない)。
「んー、でもさ、結局俺の為でしょ。俺が頼りないから」
 リボーンは今一つどうなのか分かんないけど、と沢田殿は笑った。
 それから顔を上げて、拙者の手に手を重ねる。
 傷まみれで、小さな、強い、てのひら。

「君が加減をしない分、俺はきっと強く、なるから」
「・・・はい」
 今は至極穏やかなその顔に、けれども炎を感じる。
 まだ辛うじてとはいえ拙者よりも弱いのに、それでも彼ならばと思わせるのはボスの器か。

「だから、ごめんっていうか、ありがとう、バジル君」
「いえ・・・。いいえ、そんな。拙者など、守護者達のように力にはなれなくて・・・」
 ゆるゆると首を振った。拙者は肝心な時に戦えないのだ。だからせめてと、それこそ拙者がしたくてしていること。

「守護者、ねぇ・・・」
 少し、沢田殿の声のトーンが変わった。
 周囲の空間が、それを合図に変質した(ように感じた)。

 ――― あの人達は、どうも、ね、

「・・・え?」
 消え入りそうなその呟きは、それでも耳に届いて、けれどもそれは幻聴だったろうか。
 一瞬浮かんで消えた嘲りの表情が、9代目やXANXUSとはまた異質なけれども確かに支配者の笑みだったのは、拙者の幻覚だったろうか。

「さわ・・・」
「じゃ、続きやろっか、バジル君」
 沢田殿は先に立って歩き出し、拙者も慌てて後を追った。
 ふいにこちらを振り返る。優しげな笑みに何故か戦慄した。それが表情に出ていたのか、伺うようにじっと見詰められる。

「遠慮、しないでね?」
 ボンゴレ10代目(候補)から気遣うようにかけられた言葉は、順守の命令のようだった。


 どうしても野郎には愛されたくない綱様。未然に防げそうな場合はそれとなく釘を射しておきます。
 「あの人達は、」の続きは、どうも変に俺のことが好きみたいで贔屓ばっかしてくるからさー、っていう。
 「この小さな身体で」ってお前ら身長一緒だろうというのがこの話のオチです(オチ!?)。
 バジル君ラヴァ−のみなぎさんの誕生日に押し付け・・・捧げました。バジル君一人称むずい。

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