□貴方だけなのに
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「ボス、どうぞ」
「ありがと、クローム」

 仕事で不在の獄寺君に代わって、書類がひと段落するのを見計らってクロームがカップを運んで来てくれた。
 隣に立つ彼女から受け取ったカップの中には淡い色をしたココア。紅茶以外は久しぶりだ。

「これ、クロームが入れてくれたの?」
「うん。えっと、甘過ぎ・・・?」
 口を付けて訊いた俺に小首を傾げて訊き返すクロームはとても可愛いのだけれど、俺が甘いものそんなに好きじゃないって話が何でこうも広まってるのかは改めて気になる。
 ・・・獄寺君かな。多分そうだろうなぁ。

 確かに甘いものはあまり好きではないが、嫌いという程ではないし、やたらめったら気を使われる方が俺は余程好きじゃないのだけど、そこら辺の感覚はどう言えば伝わるのだろうか(これはもう5年越しで頭の片隅に居座っている問題だ)。

「うぅん、美味しいよ。クロームは料理得意なの?」
 見た目得意そうなような、でも苦手と言われたらそれはそれでしっくりくるなぁ。
「・・・分からない。犬は美味しくないって言う。千種は何も言わないし・・・、骸様には食べて貰ったことないから」
「あぁ、そうだよね。いつも作ってるんだから上手にもなるよね」
 地雷を踏んだ気がしないでもないが、そうなのかな、と訊き返す彼女を見るにどうやら不発だったようだ。

「今日は、お仕事終わり・・・?」
 ついと視線を滑らせたクロームは、机に山と積まれた書類に目を留めて言う。
「うん。どうにか。獄寺君がいないからどうなるかと思ったけど、今はそんなに色々手を出してないしね」
 あぁ、獄寺君もそのつもりでアジトを空けたのだろうか。

「お疲れ様」
 独り言のように言って、椅子に片膝を乗り上げたクロームはそのまま俺の頬へ唇を当てた。
 ちゅ、と微かな音。
 それから、ぎしりとやや大きな音が響いた。

「・・・ね、クローム、あんまり軽々しくこういうことしちゃ駄目だよ?」
 顔を離したクロームの頬へ片手を添えて、
 骸の悪い影響なのかなぁ、と彼女との(当時の俺には)衝撃的過ぎたファーストコンタクトを思い返しながら言い聞かせるように言った。

( ・・・あれ? )

 返事がないなぁと思って視線を向けると、クロームは俺の前では珍しく、眉を寄せてむっとした表情で俺を見下ろしていた。
 ・・・ん? もしかして俺ってば睨まれてる?
 思い至り、少しだけショックを受ける俺の意識を引き戻すように、両手で俺の頬を包んだクロームは今度は俺の唇に自分のそれを重ねた。

「ん・・・、ちょ、クローム・・・?」
 無理矢理回避するのは可哀想だし、そこまでする理由はないので息継ぎを待って名前を呼んだ。
 クロームは暫し黙ったまま、構うことなく何度か口付けを繰り返していたが、漸く満足したのか口を離す。そのままごく至近距離から少し息の上がった声で呟いた。

「・・・ボス以外には、しない」

「え?」
 聞き返しても返事はなく、纏う空気すら変わったようにあっさりと椅子から降りたクロームはすたすたと出口まで足早に歩いて、
 細い腕で不釣り合いな(俺も人のこと言えないけど)重厚な扉を開けてから振り返った。

「あんまり、骸様を悪く言わないで、ね」

 そう、一言告げて扉の向こうへ。
 無駄に考え抜かれて設計されている扉は、ぱたん、と拍子抜けする程静かに閉ざされた。

 ・・・あらら、お見通しですか。
 ていうか、さっきのキスは単に骸のフォロー・・・だった、のかな?
 まぁ、俺はどっちでもいいんだけど、さてとにかく、

「怒らせちゃったんなら機嫌取らなきゃなー」
 駄菓子屋丸ごと一軒プレゼントしたら喜ぶかな。いや、怒るだろうな。
 ・・・他の守護者だったら簡単なのになー(男って単純だ。勿論俺も含めて)。

 よっし、今日はもう急ぎの仕事もないし、常備させてある(職権乱用)水飴と、俺が好きだった絵本と、気のない謝罪と、
 全力の笑顔を駆使して、

 彼女の笑顔を見に行きますか。
 (代わりじゃないよ。どっちも、いや誰も代わりにはならないんだから)


 最後だけ綱京(のつもり)。丸ごと放棄するには重要過ぎるカプなので。
 つー様はクロームたんのパパなので嫌われると凹みます。
 クロームたんはつー様のことある程度恋愛感情込みで見てるのであんまり娘扱いされるとごく偶にカチンと来ます。
 ていうか初登場のキス何だったんだろう。そんなキャラじゃないのに。やっぱ骸の悪影響か(笑)

 「綱髑10年後(←5年後に変更)執務室でラブラブ(微エロ)」というリク頂いて書きました。
 エロ要素皆無でごめんなさい・・・ orz 結局持って行けませんでした。雰囲気だけフィーリングで!(無茶言うな)
 てかラブラブでもねぇしなこれ・・・。
 リク添えてませんがこんなもので如何でしょうか? お待たせしてすいませんでした!!

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