□私か貴女でなければ
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『はい、もしもし・・・』
「京子ちゃん京子ちゃんっ!! 今いいですか!?」
『ハ・・・ハルちゃん、どうしたの・・・?』

 突然前置きなく勢い込んで話し始めたハルに、京子ちゃんが身を竦めた気配が携帯電話の受話口越しに伝わった。
 けれどもそれを気遣う余裕もなく、そのままのペースで本題へ移る。
「今日、並盛商店街の近くでツナさんを見たって本当ですか!?」
『え・・・うん、今月はちょっとだけ忙しくないって言ってから、お買い物かなぁ』
 穏やかに続けられた声に、ああそうですかと返して話が終わるならそもそも電話などしやしない。

「その時ツナさん、女の子と歩いてたんですよね?」
『よく知ってるねーハルちゃん。どうしたの?』
「さっき、花ちゃんに会って聞いたんです」
『あぁ、』
 そうなんだ。あの時一緒だったもんね。今日は2人で本屋に行ってたの、と楽しそうに京子は笑った。

 先程偶然出会った黒川花は、綱吉が少なくとも自分は面識のない少女(に見えたが、今思い返すと自分達とそう変わらない歳にも思えたと付け足していた)と一緒に居るのを見たと言っていた。
 声をかけようとしたら京子に止められたとも。

『ツっ君を見たあとの花、何だか機嫌悪そうだったから早めに別れたんだけど・・・』
「それは、」
 確かに、少しだけ話した彼女は酷く苛立っている風だった。それは恐らく今の自分と同じように思ったからで。

 自分は綱吉の職種を知っている中では恐らくそう多くはない同業でない人間で、けれど仕事の内容まで知る術はない。だから連れ立って歩いていた彼と彼女が、仕事に関わる何かの最中だったのかそれともそうでないのかは分からない。
 いや、恐らくは仕事中だったのだろうけれど。
 それでも、

「京子ちゃん、最近会ってないんでしょう・・・?」

 京子と彼が会えないでいる間に、彼が他の女の子と一緒にいるのは事実だ。
『そうだね。でもまだ2・・・あ、3週間になるのかな。でも、もしお仕事だったら邪魔しちゃ駄目でしょう?』
「けど、」
『時間が出来たら、ツっ君の方から会いに来てくれるから』
 嬉しそうに、逆に申し訳なさそうな色さえ滲ませて京子は言う。

 自分は京子の婚姻関係を知っている、本当に数少ない人間で、そしてその現状も随分細部まで把握している。だから付き合いの長さもあって、彼女の胸の内も概ね察することが出来た。
 だからこそ、

「いいんですか? ツナさん、もしかしてその子の方を好きになっちゃうかも」
 糾弾するべきは、彼か彼女か。それとも何に対するものかもよく分からないのに心配だか嫉妬だかを抑えられない自分自身か。
『・・・私は、ツっ君が無理してなかったらそれでいいよ?』
 その返答も予想された言葉で。でも納得出来なくて。でも何も言えなくて。

『独りで歩いてなくて、良かった』

「でも、隣に居たのは京子ちゃんじゃない」
 そんなの、ハルは嫌です。ツナさんの隣はハルでないなら京子ちゃんでないと嫌。
 京子ちゃんが何と言っても『ハルが』嫌だ。
『・・・私ね、ツナ君に嫌われるのは嫌だけど、一番好きで居て欲しい何て思ってないよ』
「ツナさんが、京子ちゃんを嫌いになる訳ないじゃないですか」
『うん。だからそれでいいの』
 結局最後まで静かに話す京子ちゃんの声に、ハルの嫌な部分ばかりが見えるようで、
 京子ちゃんはそれでも私を友達だと言うのだろうけど、こんな自分は『私が』嫌。

「・・・ごめんなさい。突然。切りますね」
『うぅん、いいよ。・・・ねぇ、明日会えるかな?』
 少し間を置いて、見透かしたように。
「は、い。大丈夫、です」
『良かった。後でメールしてくれる? 何時でもいいから』
「はい、じゃあ」
 ぷつり、と呆気なく電話は切れ、堪えていた涙線も瞬間決壊し、
 暫く無言で泣いた後に、翌日の講義の予定を確認してから再び携帯電話を手に取った。

 待ち受け画面は、前の携帯電話から移した画素のやや粗い写真で、
 写っているのは並盛中の制服を着た綱吉と京子と、緑中の制服を着た自分。
 何の気負いも、覚悟も、諦めも、責任も、自覚もなかった頃の。

「まぁ、無理はしちゃってると思いますけどねー・・・」

 貴女を1人ここへ置いているのだから。


 ハルと京子ちゃん。結婚後だから20歳以降。ハルも山本とくっついた後かな?
 京子ちゃんは怒らない代わりに怒られないという得なのか損なのかよく分からないキャラです。
 つー様と一緒に居たのはクロームたん。仕事でもそうでなくても可。京子ちゃんを好きなのとは別次元の話なので。
 ↓お題はつー様に向けて。諦めたのはいつも京子ちゃんの隣に在ること。

諦めても苦しいままなのですか

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