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□創傷
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「あ、獄寺」
「・・・山本? えらく早ぇじゃねぇか」
「思ったより楽に片付いたからな。お前の作戦のお陰」
「は・・・」
口の端を歪めて煙を吐いた。
自分でも温厚になった自覚はあるが、それでもこいつ相手にはどうも喧嘩腰になってしまう。
未だに「野球バカ」と口走りそうになる自分に苛ついて、転嫁と分かっていてそれを相手に向ける。
しかし向こうも相変わらずそれを気にしたふうもなく、風呂上がりか? とか聞いて来たので見て分かれ、と返して頭に乗せていたタオルを肩に落とした。
「入るんなら早く入れよ。今なら誰もいねぇから」
「そっか。さんきゅ」
少し、苦笑を交えた表情で、点々と血痕の残るシャツの袖を撫でた。
「あ、そうだ」
「?」
一旦背を向けかけてこちらに向き直った山本は、それより丁度良かった、と言って紙の束を差し出して来た。
「・・・んだよ」
「報告書」
「見りゃ分かるっつーの。じゃなくて、これ10代目に渡すやつだろ」
先に俺のところへ上がってくる書類も決して少なくないが、今山本が手にしているのは原則自分の手でボスへ直接渡すべきものだ。
「そうだけど、いいじゃん。持って行ってくれよ」
「てめー今日はこっちに泊まりだろ? 明日朝自分で行けよ」
既に深夜も2時を回ろうかという時間。重要ではあるが緊急でないその書類で彼の貴重な休養を妨げてはならない。
・・・俺が言うか。我ながら。
「けどさー、お前、これからツナんとこ行くんだろ?」
「っ!?」
ばっ、とそれこそ敵襲を思わせる程の表情と勢いで振り返ると真剣なのか茶化しているのかよく分からない瞳とかちあった。
「男が風呂40分はちょっと長いんじゃねーか? お前湯船入らねぇのに」
「・・・いつから」
「割と最初から・・・かな。お前らにはやっぱあんまり見せたくないから、待ってた」
小さく舌打ち。どうしてこいつはこうタイミングの悪い、
見せたくないというものを態々見てやる道理もないと、その場を離れるべく足を進めた。
すれ違いざま、声。
「ま、お前は気ぃ使い過ぎてる方が気楽なんだろうけど、ツナはそうじゃねーからさ、もうちょっと気を付けた方がいいぜ」
擦り過ぎて真っ赤になった俺の腕を指した山本の瞳は、さっきよりももっと底の見えないいろをしていて、
「ツナの為にって、思ってるのは分かるけどな」
言いながら腕を取られ、汗でも染みたのかぴりりと微かに痛む。
「俺さ、ツナが悲しむのは何より見たくねぇから」
分かってるさ。その為(だけ、とは言わないが)にこの世界に飛び込んで、毎日色んなものを無くして、それでも必死に何かを守って。
本来は関係なかった筈の地獄に。
「あと、お前があんまりにも報われないのも嫌だ」
「・・・るせぇよ」
分かってはいるんだ。俺が10代目のことを根本で永遠に理解し得ないことも。
こいつは俺より余程全て分かっていることも。
それは10代目のことも、俺の事も。
緩く腕を引くと、山本はあっさり手を離す。
「ん、お節介だったな。あぁ、で、これついでに持ってってくんね?」
「・・・わーったよ」
待たせた詫びだと素直に受け取ってやり、10代目の自室へ向かうべくエレベータへ足を向けた。
+
・・・何だろうこれ。アニリボ標的100見てたら書きたくなった。
獄はつー様に抱かれる前は、つい執拗に身体洗って、腕とか真っ赤になっちゃってたら痛々しくて可愛いと思う。
そんでつー様にも(うわぁ痛々しいなぁ色んな意味で)って思われて益々痛い子になればいいと思う(・・・)。
「創傷」とは擦り傷をはじめ外的要因による傷を指します。
132 熟れた林檎の皮を剥く、生きたまま(Short message)