□共歩
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「うーん。やっぱり一杯になっちゃうわね」
「どうしてもね・・・。もうここは寝室にするしかないかな」
 物心付いた時から俺の私室だった部屋は、組み立てが終わったばかりのダブルベッドに殆ど占領されてしまっていた。
「そうね。机やテレビは空いてる部屋に移せばいいんじゃないかしら」
 理由を知らなければ分からないくらい微かに、母さんの声が沈んだ。

 この家に余っている2つの部屋の一方は、ずっと昔は父さんが、そしてつい最近まではビアンキが私室として使っていたものだ。
 父さんは相変わらず思い出したようにしか帰って来ないし、ビアンキは取り敢えずそれなりに完成した部分もあるボンゴレのアジトの方へ荷物を移してしまって、2年程前からその部屋は、元々あった父さんの荷物を戻すでもなく随分殺風景なままで放置されていた。
 もう一方は元は客間で、いつの間にか子供部屋になっていたのだけれど、フゥ太とランボは俺が高校に上がって間もなくイタリアへ渡り、こちらへ戻ってからはビアンキと同じくアジトへ住み込んでいるし、イーピンは2年程前に一度中国へ戻った後、いつまでも迷惑はかけられないと1人暮らしを始めてしまって(まだたったの9歳だったというのに)、一時あれ程賑やかだったからか、今のこの家は随分静かだ。

「それにしても、ねぇ、ツナ」
 ふいの言葉。珍しい真剣な声色にドライバーを弄んでいた手を止める。
「貴方は、あの子をここに置いていくのでしょう?」
「うん」
「これじゃあ、余計に寂しくないかしら」
 声色にこそ変化はないが、母さんは怒っているようだった。

「・・・俺も、そう思ったんだけどね」
 俺がここで眠ることなど多くて月に5回程だ。広過ぎるベッドに彼女は何を思うのだろう。
「でも京子ちゃんが、これがいいって言ったから」
 何をしているのかも知れないマフィアのボスが空けたままの場所を、如何して待ち続けるのだろう。

 母さんは暫く黙った後に、そう、と言って苦笑した。
「あの人とはやっぱり違うわねぇ」
「・・・父さん?」
 問いというより確認の為に言うと、母さんは憮然とした顔でそうよと言った。
「あの人ったら、結婚してもあわよくばマフィアのことは言わずにおこうとしてたのよ」
 結局そうもいかなくなって、土下座した父さんにボンゴレファミリーのことを知らされたのはもう俺が産まれようかという頃だったと聞いている。

「本当、あの人は女を舐めてるんだから!」
 怒りに任せて乱暴にマットレスを敷く母さんに曖昧に笑った。怒りは最もだけれど父さんの気持ちも分からないでもない。
 本当のことを言って離れてしまうことがどうしようもなく怖かったのだろう。俺の臆病さは彼に起因するものなのだろうか(少なくとも母親からの遺伝ではなさそうだ)。
 それから全部を知っても父さんと別れるでもなく嫌うでもなく、しれっと何も知らないふりで俺を殆ど女手一つで育て上げたのだからこの人も存外恐ろしい。
 話すのが、離すのが怖くて何も言わなかった父さんと、巻き込むのが怖くて話し、離そうとした俺は一体どちらが臆病なのだろうか。

「その点はツっ君の方がよっぽどいい男だわ」
「・・・俺は母さんの子でもあるからね」
 言いながら、ふわりと薄緑の羽毛布団をベッドへ広げた。
 きっと全て分かっていて言う母さんに、俺も父さんも一生敵わないに違いない。
 全てを告げる事が、そのまま彼女達を遠ざけることになると思い込んでいた俺も父さんもやはり彼女達を舐めていたのだろう。

「苛めないであげてね。お姑さん」
「あら、中々帰ってこない親不孝な息子よりはよっぽど可愛いお嫁さんだもの。幾らでも可愛がってあげるわよ」
 ピンポーン、
 軽口を返された所でチャイムが鳴り、階段を下りて玄関へ。遅れて母さんが階段を降りる音を背に扉を開いた。

「いらっしゃい、明けましておめでとう」
「明けましておめでとう。じゃあお邪魔します。・・・うぅん、そうじゃないね」
 ふわり、微笑んで。

「ただいま。ツっ君」

 おかえりなさい京子ちゃん。これからも、どうぞ、宜しく。


 超今更あけおめネタ。つー様20歳京子ちゃん19歳のお正月。
 つー様の家は5LDK。こたつとか置いてあったとこがリビングで、あとキッチンダイニングと上記2部屋とつー様の部屋、奈々さんの部屋、寝室(どうでもいいよ)。
 思い付きみたいなものですが、京子ちゃんは結婚後はつー様の家に住んでればいいと思いました。
 だってそうじゃないと結婚後のつー様は唯でさえ少ない自由時間を実家と京子ちゃんの家に配分しなきゃいけなくなるし。
 護衛の仕事が回ってきた時はお兄さんも泊まり込みます(笑)。

262 二つの足跡(Short message)

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