□青年祭
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 さくさくさく、
 こんな時に限って積もった雪の上を歩く。
 お世辞にもしとやかでない歩みに雪が蹴り上げられ、足袋が濡れて足がかじかんだ。
 はぁ、と手に息をかけ白いショールに首を埋め、

「あ、ハルちゃん」
 前方からの声に顔を上げると、赤とピンクの振袖を纏った京子ちゃんが控えめに手を振っていた。
「京子ちゃん!」
 思わず手を高く挙げかけて、美容院で気崩れるから駄目だと強く念押しされていたことを思い出して踏みとどまった。
「わー可愛いですねー。やっぱりハルもピンクが良かったですぅ」
「ありがと。でもハルちゃんもよく似合ってるよ」
 そうですか? と袖を持ち上げる。母が選んでくれた紺青と白が基調のシックなデザインは嫌いではないが。
( ま、でもピンクはハルより京子ちゃんですよねー )
 思いながら、振袖には不釣り合いなデジタルの腕時計を確認。

「式まであと30分ですか。もう苦しいです。グロッキーですー」
「まあでも成人式自体はそんなに長くないんだし、我慢しよ?」
「うー、はい・・・」
 成人式。古くは青年祭とも。
 一生に一度の式典。
 振袖を着て写真を撮って会場を訪れて、までは楽しかったのだけど、小学校からずっと私立で町外に通っていた私には、並盛町にあまり旧友もおらず、いい加減帯が苦しいのもあってそろそろテンションが保たない。
 それでも、父親が泣いて喜んでくれただけでもお釣りがくるというものだろう(少々気恥しいが)。

「学齢方式になって良かった。私だけ来年になっちゃうところだったよ」
「あー、京子ちゃん3月生まれですもんね」
 暫し談笑。ふいに視界に違和感。
「・・・あ」
 京子ちゃんの少し後ろで視線を止めて固まったハルに、京子ちゃんも背後を振り向いた。
「あ、獄寺君、山本君」
「おー、ハルと笹川じゃねーか。一瞬分かんなかったぜ」
「・・・」
 愛想良く返事をした山本さんと対照的に、獄寺さんは眉間に皺を寄せただけだった。
「山本君、袴似合うねー」
 黒と濃紺の袴は確かに彼に良く似合っていて、京子ちゃんに言われた彼は照れたように笑った。

「・・・お2人だけ、ですか?」
 彼らを目にした瞬間の疑問。微かな間の後に呟くと、山本さんは虚をつかれたように一瞬目を見開いて、それから頭を掻いて苦笑した。
「あー、ツナ・・・な、」
「守護者が2人も不在の時にボスの手が空いてる訳ねーだろ。年始は唯でさえ忙しいのに」
 言い淀んだ山本さんの言葉を獄寺さんが補足する。
「俺らだってこんなことやってる程暇じゃねーってのに・・・」
 苛々と早口に言って、山本さんを睨む。

「じゃあ、獄寺さんじゃなくて、」
 ツナさんが、と、言おうとして辞めた。
 誰よりも悲痛に『そう』思っているのは私ではない。

「獄寺、ついさっきまでぜってー行かねーつっててさ、仕方ねぇからスーツのまま引っ張って来たんだけど」
 ち、言葉尻に獄寺さんの舌打ちが混じる。
 彼が着ているスーツは、正装ではなく単に仕事着らしい。場には溶け込んでいるが。
「普段からスーツで得したなー」
「阿保か」
 ぽんと肩を叩いた山本さんの手を払い、ぎりと歯軋り。忙しい人だ。

「俺らがちっと無理すりゃ、10代目1人くらいはどうにかなったんだ」
「けどま、ツナの奴こういう時は言い出したら譲らねーからな。せめて好意は素直に受けねーと」
 つまりツナさんは、自分1人とこの2人を天秤にかけたか、かけるまでもなくこの2人を選んだらしい。
「あと、先輩もどうにか休みに出来ないかなって言ってた」
 まぁ、やっぱ無理だったみたいだけど。と、山本さんが続けた。
「そう、お兄ちゃんまで・・・」
 京子ちゃんが複雑そうな笑みで目を伏せる。1年前の今日は勿論彼も休暇だった。

 一瞬沈黙が下りて、獄寺さんがその場を去ろうと身を翻しかけ、あ、まって、と、京子ちゃんの声。
「ねぇ、4人で写真撮ってツっ君にあげようよ」
 デジタルカメラを手に笑う京子ちゃんに、獄寺さんは怒りこそ引っ込めたものの、無表情に言葉を返した。
「てめーらだけで撮りゃいいだろ。俺は普段着なんだしよ。そもそも住民票もねーし、本当は招待されてもねーんだから」
 予想通りの言葉。山本さんも仕方ねーなと肩を竦めた。
「でも、」
 こちらは予想を裏切って続けられた言葉。私も獄寺さんも京子ちゃんを振り返る。

「でも、1枚だけの方が飾るの楽でしょ?」
 ツっ君にちゃんと全員分の写真届けてあげようよ。

 はは、山本さんが声を上げて笑う。
「ちげーねーな。お前の負けだよ獄寺」
「・・・チッ」
 渋々獄寺さんが踵を返して、京子ちゃんは通りかかった旧友らしい女性に声をかけカメラを手渡した。
 獄寺さんはそっぽ向いたまま、京子ちゃんは薄く微笑んで、ハルと山本さんは折角の晴れ着でいつも通りのピースサインをして、
( 京子ちゃんも大概最強ですよねー・・・ )

 パシャリ、


 遅れたけど成人式話。私の振袖はピンクに赤帯でした。母のお古ですが中々良いものだそうです。
 本当は花ちゃんも入れたかったんだけど、マフィア話出来なくなるので・・・。

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