□Love Lone Star
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「ただいま、京子ちゃん」
「お帰りなさい。本当に返って来てくれたんだね」
 うん。今日くらいはね。
 ツっ君は申し訳なさそうに苦笑した。
 3月4日に日が変わって暫し、まだまだ寒い中を歩いて帰って来たというツっ君の手は冷たい。
 かつての彼の部屋、今は、私と彼の寝室で、ツっ君はその両手を包んだ私に冷たいでしょうと言った。
 だから私の手が暖かいんだよ。それでいい。

「朝には、戻らなきゃいけないんだ」
「そうなんだ。大変だね・・・」
 ごめんね、とまでは言わせない。
「私がちゃんとツっ君と結婚してたら、もっと一緒に居られたのかな」
 ごめんね、とまでは言わない。
 だってそれは彼の望みでもあったのだから。
 もしも彼が共に裏の世界へと手を差し伸べるなら、私はきっとその手を取ったろう。
 けれども本当はこちらに居たかった。この世界も、ツっ君も、私にはとても大切なものであったから。
 それは彼にも全くそうであるに違いないのだけれど。
「そうじゃ、ないんだよ」
 ツっ君は何とも形容し難い表情を作る。
「それに、俺なんかの為に京子ちゃんを巻き込んだり出来ないよ」
 もう、充分巻き込んでるけど。自嘲の表情は見ていて痛々しい。
 ツっ君は私のお兄ちゃんと一緒に働くことをどうしようもない重罪に感じているようだった。その上で、私とこうしていることも。
 彼が『俺なんか』と口にすることは昔から多くて、けれどもその言葉は徐々に重くなっていくように思う。
 思うだけで実感がないのは私が少しもそれを負うことが出来ないからだ。彼の全ては彼だけに在る。

 彼に愛される事はとても幸せなことだ。それは定義であり覆らぬ真理。
 そうであるのに彼は何時までも彼を愛さない。

 ツっ君は、自分のことを好きではないから、そこがどれだけ彼にとって幸せな場所であったとしても結局それを喜ぶことが出来ない。
 彼に直接それを言えばきっと心から否定するのだろうけど、ツっ君自身以外は本当は皆それを知っている。
 ツっ君の幸せは私達にある。ツっ君は私達のことを好きだから。
 そうして彼はいつでも自分以外のものの為に生きている。自分の為の幸せを見つけられない彼は、誰かの為にしか動こうとしない。
 彼の全ては彼だけにあるのに、何一つ、彼の為では有り得ない。

 沢山の人を愛して、沢山の人に愛されているツっ君だけれど、偶にどうしようもなく遠く感じる時がある。そもそも近く感じることなどありやしないけれど。
 ツっ君は沢山の人に愛されているけれど、ツっ君はツっ君に愛されていない。
 恐らくそれがこの矛盾ともどかしさと切なさの根源だ。

 それを哀れだと思うけれど、どうにかしたいとは思わない。ただどうにかなればいいと願うだけだ。
 だって私にはどうにも出来ない。それはツっ君の心一つで変えられる代わりに、それでもってしか変えられないのだから。
 そして彼はそこに私の力を求めることなどないだろう。これだけに限った話でも、私だけに限った話でもなく。
 私はツっ君とちゃんと結婚することは出来なかったけれど、申し訳ないとはどうしても思えなかった。
 それは彼の望みだったからとかそういうこととはまた違う話で、だって、

 ツっ君と本当に並んで歩める人なんてきっと居やしないのだ。
 ツっ君がずっとひとりぼっちでかわいそうなのは彼の所為ではないけれど他の誰の所為でもない。

「あ、1時過ぎたね」
 時計はいつの間にか午前1時3分を指していた。
 私が1時丁度に生まれたのだと教えたのはまだ中学生だった時だ。よく覚えてくれているなぁと思う。
「京子ちゃん、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
 なるべくたくさんの意味を込めてそう返す。
「本当はね、俺が君にお礼を言われる筋合い何て、ないんだよ」
 俺は、君に何一つ与えていないのだから。
 君の選択は、全て俺の為なのだから。

「君が、ボンゴレボスの妻でないから、俺は今日ここにいられるんだよ」

 けれども矢張り私はありがとうとしか言えないのです。
 貴方は私に何も与えなかったけれど、私は貴方に沢山の物を与えられました。
 私の選択は、全て貴方の為だったけれど、全て私の為でもあり、なのに貴方の選択の一部は真に私の為でありました。
 私達の幸せでしか幸せになれない貴方の為に、どうしても幸せになりたかった私を満たしてくれたのは、他にも沢山であったけれども一番は貴方でありました。

 どうか、

 私が生まれたことで、貴方になるべく沢山の幸せが訪れますように。
 ほんの少しでも、貴方が自分の事を好きになれますように。
 貴方を最も愛しているのはきっと私ではないけれど、
 それでも貴方の為に、私の為に誓いましょう。

 私は、誰より貴方を愛していると。


 よく分かんない感じになりましたすいません。誕生日なのに糖度低い!
 ラスト1行は、『つー様を一番愛してるのが京子ちゃん』ではなく『京子ちゃんが一番愛してるのはつー様』です。
 タイトルはGARNET CROWの曲名から。勝手に綱←京ソングだと思ってます。

輝いてみえるけど何も住まない星 背伸びしても届かないから見つめていた
ねぇ最初にみたもの今も覚えている? いつか君にも見える花火を打ち上げたい
(byGC 『Love Lone Star』)

196 伸ばしても届かなかった手

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