□壁の向こうへ
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「退屈」
 こんな家、もうやだ。

「出てくよ。近いうちに」
 そしたらジルだけが正当王子だ。

「俺が消えてやるよ。感謝しな。じゃあね」
 兄貴。

 幼いお前は躊躇いなく言い切ったな。
 それがどれ程恐ろしい事なのか理解もせず。
 俺はその場でいつも抱えてた煉瓦みたいに赤くて分厚い本を投げつけ、
 そのまま馬乗りになって脳震盪起こしてたお前を一回は呼吸が止まるまで殴った。

 お前はそれから一月程大人しかったからてっきり分かってくれたのだと思っていた。
 石やら泥団子やらナイフやら火炎瓶やらが飛び交う日常が戻るのだと思っていた。
 俺達が大人になって俺が王になってからもずっとそれが続くのだと思っていた。
 なのに、お前は俺が思ってたよりずっとずっと愚かだった。何が天才だ。

 お前を組み伏せて蚯蚓入り泥団子を無理矢理嚥下させお前が嘔吐して気絶した翌日。
 朝どうにか起きては来たけれど顔が真っ青で足がふらついたままのお前を見て俺はやり過ぎたなと思っていた。
 翌日まで響くようではいけない。今日いつもみたいにナイフを投げたら弱いお前は死んでしまうかも知れないから。
 だから今日は何も出来ないのだなと俺は悲しく思っていたのに、

 その日の午後、俺はお前に殺されて埋められた。

 お前は何も分かってくれてはいなかったのだ。
 俺とお前が、俺にとって邪魔にしかなれないお前が、どうしてこの世に生まれたのか、お前は少しも分かっていなかったのだ。
 そうして俺の消えた不完全で無意味な世界を、お前はそれを知らないまま生きている。
 なんて愚かで、憎らしく、醜く、哀れで、そして愛しい。

 俺達は、互いの可虐性を発散する為に対になって生まれたんだ。
 だからどちらかだけでは不完全なんだよ。
 お前が俺を殺したように、俺もお前を殺してやるから。
 その、不完全な世界から、今度は俺が解放してあげる。だって、

 俺はお前を愛しているからね。
 暗い冷たい土の中で、俺はじっとずっと待っていた。
 光の中、きらきらと金色の髪を煌めかすお前を救うこの日を。
 さあ、愛しい我が弟。待っててね。

 今から、会いに行くよ。


 今、会いに行きます(違わない)。
 白蘭さんの能力=蘇生 が前提で。
 息止まるまで殴られたら一ヶ月くらいは嫌でも大人しくなります。
 ベルは殺しが好きな事以外は割とまともなので、普通にジル様が大嫌いでした。

200 煌く光は生と死の壁を越えた向こう

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