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□リンゲージ
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 先代が死んでバリオディウス様が皇帝になってから、ローテルディアとの抗争はまさしく戦争の体を成す程に激しくなった。
 貧しい中の増税に輪がかかった民衆も大勢死んでるし、宮廷の上層部も戦争のどさくさでしょっちゅう入れ替わっている。
 俺はそのおこぼれに預かったクチで、この歳であの12オーダーズのアクアバトラーにまで上り詰めた。
 因みに先代のアクアバトラーというのは、俺の父親なのだけれど。

 幹部とはいっても、平均寿命が短く入れ替わりの激しいガンダルディア上層部の平均年齢は相当若い。
 先代の時から仕えてたのはもうナザックだけで、ギルは俺と同時くらいに12オーダーズに入った。最も、先代のノヴァバトラーは他でもないギルが殺したんじゃないかって噂もあるけど。
 あいつのプライドの高さとか容赦無さとか貪欲さとかはちょっと異常の域だ。それでもうNo.2だなんて言われてる。最も、ただ自己中が過ぎるだけなんじゃねえのって、俺は思うんだけど。
 正直、怖いだけならカザリナの方がよっぽど怖い。でも爆丸に無茶苦茶な生体実験繰り返してもうちょっとで失脚するとこだった彼女にこそ、バリオディウス様は目をかけていた。
 だから先代がまだ生きてた頃から、彼女は明らかにバリオディウス様の方に傾倒してた。彼が即位して、残虐性を露わにする程益々魅せられて。家系だったヒプノシスとしての能力も、12オーダーズに入るなり彼に捧げるように異常に強力に発現した。
 先代が死んだ時、きっとバリオディウス様とカザリナだけはそれぞれ密かに祝杯をあげたのだ。

 まあ、全部俺には関係の無い事だ。精々うまくやって楽に生きるさ。
 彼等の恐ろしく強くそして必死な生き方は、俺には理解できない。

 バリオディウス様が即位して直ぐくらいに先代のゼフィロスバトラーが死んだ後、そこは長らく空席だった。エイザンを昇格させるって話も何回か出たけど、やっぱちょっと力不足だし。あいつ変な奴だし。
 そんな、折り。
 ギルが、どっかからきったないガキを拾って来た。
 ガキって言っても俺よりはちょっと歳上で、多分あのスラムじみた市街の子供。どうやら親は居ないらしい。ギルは、自分が育てて彼を12オーダーズのゼフィロスバトラーにすると言った。
 基本は世襲制で成り立ってるこの世界で、最上位の12オーダーズに階級無しを抜擢するなんて異例中の異例だ。
 けどバリオディウス様に一目置かれてるギルの意見だし、実際そいつがあっという間にエイザンよりも強くなったしで、エアゼルは2年くらいで正式に俺と肩を並べる事になった。肩の位置はあいつのが大分高いけど。





『行っけぇリズラス!』
『キマイラ! 迎え撃て!!』
 相打ちに終わって、足元に球が転がる。衝撃が生んだ暴風が、互いの髪を揺らした。
『互角かよ。あーくそムカつくな』
『ギル先生の教えの賜物だ』
『あっそ』
 風に色が付いたように、碧がたなびく。
 背中まで伸びたエアゼルの髪は、頭上で一纏めにされていた。
『健気だねぇ』
『・・・何の話だ』
 エアゼルが不快そうに眉を寄せる。
『これ、さぁ、』
 言いながら、ミントグリーンの髪を掴んだ。あの日、ドロドロで色何か分かんなかった髪は、綺麗に手入れされていてふわふわと掌を撫ぜる。
『何なの、ギル先生はこんなので喜ぶワケ?』
『!』
 一瞬見開かれた瞳に、驚愕と困惑と、怒りと、
『俺が、勝手にやった事だ。ギル先生はただ、・・・その方が良いと、仰って下さっただけだ』

 ほんの少しの、悲哀。





「俺、見ちまったぜ?」
 ローテルディアに乗り込んでの総力戦。
 リーナ達にかけられた催眠が解けたのを見て、エアゼルに囁く。
「ガンダルディアを発つ時、ギルがお前に何か囁いて引き返してったのをさ」
 きゅうと瞳が細まる。
「・・・カザリナを殺ったのはさ、ファビアじゃないんじゃねぇの?」
 密かにバリオディウス様と通信を繋げて、友人のような近さで問うた。
「確かに、ギル先生はカザリナを始末する為にガンダルディアにお残りになられた」
 存外あっさりと、エアゼルは認めた。
「全てはカザリナが悪いのだ・・・。先生を愚弄して、唯で済まされる訳がない」
 自答するように、呟く。

 これでもう、引き返せない。
 あーあ、ほんと、ギルもエアゼルも馬鹿だよなあ。
 自己愛と自尊心に歪んだ、恐らくまともに自覚さえしていなかったギルの恋は、その決着までどうしようもなく幼稚で独りよがりだ。
 例え殺した所で、カザリナは恨みと言う形でさえギルに執着何かしやしないのに。
 そしてそんなどうしようもないギルの気持ちを、きっとギル自身よりよっぽどちゃんと分かってた筈のエアゼルは、結局彼の言葉に黙って従う事だけしか是としなかった。





『幾ら髪型何か真似たって、ギルはお前の事何か、なんとも思ってないぜ?』
『・・・』
 エアゼルは何も言わずに目を伏せた。
 静かな空気の中、カザリナとは違う柔らかな髪が視界の端で微かに揺れる。
『お前を育てたのだって、カザリナへの対抗意識だろ』
 爆丸の生体研究で成果を出してたカザリナの功績に対抗する為の、1つの実験に過ぎない。
『難儀だよなぁ。カザリナちゃんは、ギル何か眼中にねぇのに』
 彼女は例え裏切られても、殺されても、バリオディウス様の為だけに在るのだと豪語していた。
『・・・ま、俺にはよく分かんねぇけどさ』





「この俺を欺けるとでも思ったか! ギル!!」
 バリオディウス様が低く叫び、ダラクノイドの砲身がギルに向けられる。
 ・・・あーあ、自業自得だねぇ。
 まあ最終的に仕向けたのは俺だけどさ。
「お逃げ下さいギル先生!! ・・・ッ、キマイラ!!」
 ごう、と、

 俺の隣を、風が吹き抜けた。





『・・・分かるよ』
 ぽつりと、声が返った。
『俺には分かる』
 だって俺も同じだから、と。
『ギル先生の心がこちらに無くても、先生自身の恋がどれ程不毛でも、俺の心は変わりはしない』
 拾われた方は、変われないんだ。自分が想われてない事くらい分かってる。
 そう言ったエアゼルは、微かに笑っているように見えた。





「先生ェ―――ッ!!」

 最後の最後まで、強く、その人を呼ぶ声が空気に溶けた。
 きっと、カザリナが最期に呼んだのが、バリオディウス様に他ならなかったように。
 そうして立ち塞がったエアゼルとキマイラ諸共、結局ノヴァガンダリアンは炎に呑まれた。

 ・・・ああ、やっぱ分かんねえよ。
 なあエアゼル、お前本当にそれで良いのか。本当にそれで良かったのか。
 うーん、馬鹿は死ななきゃ治んないって言うけど、1つも理解出来ないままだ。

 もしも次またあいつに逢えたら、もっとちゃんと訊いてみようか。


 あの少人数でポニテ被りしてるとか胸アツですよね。
 タイトルは『連鎖』の意。
 バリオディウス←カザリナ←ギル←エアゼル←スコーティアの不毛連鎖(しかも生存率0)。

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