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□call my name
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さして複雑でもない、ありふれた事件の犯人が捕らえられて、あとは証拠の裏付けをしていくだけの平坦な1日。
そのプロファイルや成分分析や嗅覚や聴覚を求められた青山達は丁度皆出払っていて、部屋の中に1人で彼等の報告を待っていると、まるであの頃に戻った様な気がした。
ああ、退屈だ。
既に出来上がった書類を見るともなく眺める。
何の責任を求められたのだったか、端に俺のサインが書かれていた。既に記憶にない。
防音の成された部屋はただ静かで、自宅程ではないが心穏やかな寂しい安寧だ。
赤城 左門
両親がどういうつもりでこの名を付けたのかは知らない。学生時代なんかは気にした事も無かったし、今もさして興味は無い。
ただ、ひたすらに暇を持て余して、見るとも無しに自分の名前を眺める。
『城』や『門』は排他的で閉鎖的な感じがする。
『赤』や『左』は不安定で攻撃的な印象を受ける。
ああ何だ。俺にぴったりじゃないか。
別に、名前なぞの所為で俺が『こう』なった何て非科学的な事を言うつもりは無いけれど。
それでも、
「赤城さん?」
声。
何時の間に、戻っていたのか。
百合根 友久
優しい形の文字。柔らかい発音。
密やかで、穏やかで、どこか清浄で、強く、しかし親しみのある。
『百合』と聞いて白色を想起する所為かも知れない。いかにも大衆然としたスーツを着ている所しか見ないけれど、きっと彼は白がよく似合う。
その花の名や『根』という文字を含んでいる事による植物のイメージが穏やかさを感じさせるのだろうか。
ああ、『友』という文字がそのまま彼を表しているからかも知れない。誰にでも隔てなく優しい彼。
それと、最後の『久』。久遠。悠久。永久。曲がりくねりながらも、ずっとずっと、伸びて行くさま。
良い名だなと、単純に思う。
でもきっと、どのような形でも、音でも、彼がそれを冠している事に価値がある。
俺などが、口にするべきですらないくらいの。
彼の声が他の部署から回って来た報告を読み上げている。
時々、確認するようにこちらを見て。途中、何度か俺の名を呼んだ。
あかぎさん、と。
彼が呼ぶだけで、俺の閉鎖的な攻撃的なその名前さえ、酷く優しい音で響く。
全てのものに優しく正しい、俺達の救世主。
「・・・キャップ」
「はい?」
そうして俺は、王を呼ぶように、神を呼ぶように、親愛と畏怖と諦観と尊敬とを込めて、名前では無い特別な響きでもって彼を呼ぶのだ。
「赤城さん? ねえ、さっきから聞いてます?」
「煩いぞキャップ。俺は考え事をしているんだ。前から思っていたがキャップは少しお喋りが過ぎる。相手への配慮が欠如しているんじゃないのか」
「えーそれ赤城さんが言います?」
+
流行に乗るとリア充になったようで何やら気恥ずかしいですね(錯覚)。
どうしても恋愛感情じゃなくて崇拝になってしまう。釣り合わない天秤が愛しい。
タイトルはGARNET CROWの曲名から。
孤独(ひとり)になることが怖いくせに 一人が一番落ち着いていた
そんなお互いの心ん中 当たり前のように存在していたね
呼びなれた名前何度も 二人しかいない部屋で ちゃんと呼んでくれる
ただそんなことが 暖かく響く なによりも甘く be aware