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□トマトケチャップの伝言
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「やっぱり残ります。お腹すいたんで」
 放っとけと言われたのに反応して、入口から踵を返す。赤城さんの隣に座り直した。
「言われた通りにやりたくない秩序恐怖症か」
 吐き捨てるように言って、立ち上がった。
「えぇっ、今度は赤城さん!?」
「三枝さんオムライス。ケチャップ3倍で」
 困惑するキャップの言葉を遮るように注文を口にする。
「・・・あぁああ〜、もう!!」
 キャップは僕と扉を何度か見比べた後、結局Cafe3から出て行った。

「酷い・・・」
「赤城君は、ああいう人ですからね」
 期待の裏返しでしょう。三枝さんが苦笑する。
「違う。赤城さんがああ言うのは当然。ミスした僕が悪い」
 スデナグリの事件のプロファイルが間違っていた。今考え直すと、確かに短絡的に決め付け過ぎた部分もある。分かり易い解に飛び付いてしまった。早く成果を上げたくて。他の馬鹿な捜査官達みたいに幼稚な自己顕示欲に捕らわれて。

 人として欠陥を持つ僕達は、確実な成果を上げる事でのみ存在が許される。
 人間なら誰しもミスをするなんて、本心から言ってたなら本当はそっちの方が余程馬鹿にしてるんだ。筒井さんやキャップに悪気が無いのは分かるけど。
 でも、だから別に赤城さんは酷く無い。ここに来る前から分かっていた。あの人が僕に慰めなんて言う筈が無い。言われたくも無い。

 赤城さんが僕の我儘や欠陥に殊更に厳しいのは、自己嫌悪の裏返しだ。
 何故そんな態度しかとれないのか、何故そんな不可解な欠陥が治せないのかと、あれは自分自身にも怒ってる。不器用な人。
 それが分かるから、僕は赤城さんに歪な仲間意識を感じてるし、それで漸く信頼も出来る。僕らはそうしてしか成り立っていないから、赤城さんの言い分はちゃんと分かってる。
 酷いのは寧ろ、

「・・・キャップは、やっぱりあっちに行くんだなって、思って」
 僕が失敗した事よりも、落ち込んだ事よりも、酷く詰られた事よりも、
 失敗して、落ち込んだ仲間を、あんな言葉で詰るしか出来なかった赤城さんの方が心配なんだ。
「その内、戻って来られると思いますよ」
「赤城さんに言いたい事ぜーんぶ言った後でね・・・」
 かちかちと音を立てながら、黙々と皿の上を減らす。オムライスは、ケチャップが3倍な事を差し引いてもやけにしょっぱかった。
 ねえ覚えてる?キャップが綺麗に食べて欲しいって言ったんだよ。ほんの少しの事でも、僕が努力してるのが嬉しいって言ってくれたんだよ。
 秩序を感じる胸の悪い食器の上も、キャップがそんなに喜ぶなら偶には良いかなって、思ったんだよ。
「・・・ねえ、僕もう帰って良い?」
 せめて。

 空になったこの皿にキャップが気付いてくれたら良いと思った。


 青山ちゃんは味覚がおかしいからケチャップ多くする訳じゃなくて、料理として秩序の無いものを食べたいだけだから決して美味しく頂いてる訳じゃないのでは、とか。
 タイトルはルージュならぬ、みたいな・・・。

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