□−10の君
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「ちょっと遅かったですね。雲雀さん」
 頭上から降ってきた高めの声に顔をあげると、琥珀の髪と、瞳と、穏やかな微笑みとを湛えた彼がコンテナに座って雲雀を見下ろしていた。

 最近並盛に燐する街の港に少し不穏な動きがあると聞きつけ、調べ上げて今日この場所で取引があるらしいと、わざわざ雲雀自ら出向いたというのに、出迎えたのはマフィアでも暴力団でもなく、楽しそうに笑う沢田綱吉だった(いや、彼もマフィアの、それもボスであるけれど)。
「どういうこと?」
 ぎろりと睨みあげる。綱吉はわざとらしく肩を竦めた。
 月を背負って、体の輪郭が薄くぼやけて見える。
「言ったままの意味です。ちょっと遅かったですよ」
 それが言い終わらない内にそう離れていない場所からどぉんと爆音が響いて、あーあー獄寺君ってば目立たないようにって言ったのに、と苦笑した。
「ふぅん。密輸の噂、ハズレじゃあなかったんだ」
「えぇ、まぁそれも今日までですけど」
 何か、横取りしちゃったみたいでごめんなさい、と雲雀を振り向く。

 ガッ、

「・・・相変わらずですねぇ、雲雀さん」
 本気では勿論ないけれど、振り抜かれたトンファーを片手であっさりと受け止め、綱吉はまた笑う。
「そういう君は変わったよね」
「そうでもないですよ」
 へらりと言ってのける綱吉に小さく鼻を鳴らしてトンファーを袖に収めた。
 跳び上がったコンテナは思ったより高く、未だ戦闘の収まらない港が一望出来る。
 また起きた爆発の光を受けて、綱吉の瞳は金色に煌いた。



 そして、この日再会(・・・?)した彼は嬉しそうに僕を「ひばりさん」と呼んで、僕は、声、高くなったなぁとかおかしなことを思って。
 まだ困惑して混乱してる彼が、でも、僕はどうしても嬉しかった。きっと。だから、これは再会の挨拶みたいなもので、
「言ったでしょ。群れるのは嫌い」
 十年前の彼に、十年前から変わらない酷く理不尽なその理屈をぶつけて、殆ど反射的にトンファーを抜いた。

 が、ん、

 幼い綱吉が、目を見開くのが見える。
「いったぁああ!」
 受け止めるどころかかわすことも出来ず、僕の攻撃をまともに食らった綱吉は顔を手で覆って呻いた。
 指の間からこちらへ向ける涙の滲んだ瞳には、確かな畏怖の色。

 ・・・あ、ぁ、
 うん。分かってた。分かってる。
 君は、君ではないんだよね。

「あとは草壁から聞いてよね」
 出来る限り何の感情も混ぜないようにそう言って、異様な(そう、異様だ。死人が、しかも死とは無縁だった頃の姿で現れるなんて)空間に背を向ける。
 それでも背中に感じる視線は確かにあの金色と同じもので、僕は胸を焼くそれから逃げるように部屋を後にした。
( ・・・分かってるよ )

 僕の君は、もういないんだよね。


 初復活ss。知識浅いのにこんなもん出していいのかって感じなのですが。
 アニリボ83話で綱雲。録画とかしてないしコミックスもないので台詞はうろ覚えというか、こんなんだったかなーくらい。ツナがいつの間にか殴られてるのにめっちゃ萌えたので。
 「僕の君」は恋人のって意味じゃなくて、自分と同次元に存在していた綱吉は、って意味。

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