□もし僕が、あんなふうに、
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 委員会まで時間が少し空いていたので、下校する生徒達に会わないように屋上へ上がった。強くもない奴殴って回ってもつまんないし、だからといって殴りつけたい衝動を堪える程無駄な労力は僕にはないし。屋上の扉を開け放つと、少し強い風に煽られて引っかけた学ランがばたばたと暴れた。
 手すりへ寄り掛かって何気なく下を見下ろすと、楽しそうに群れる奴ばかりで酷く苛々する。ああもう、これじゃ意味ないじゃない。
 だからせめて中庭の方へ視線を滑らせると、見知った顔が二つ。

( ・・・あれは )

 意識を向けると、微かに声が届く。

「―――・・・のに、獄寺君ってば結局山本のこと追い返しちゃって」
「いいじゃないスか、あんな野球バカいない方が」
 いつもみたいに彼にだけは愛想良く笑うが、向けられた沢田の方は少し困ったような顔をしていた。
 どうやら一緒に帰ろうとしたのに獄寺隼人が山本武を追い返してしまったらしい。疎まれることを今更気にする山本ではないだろうから、獄寺の我儘を聞いてやっただけか、或いは沢田が揉め事を嫌って今日はそうするように言ったのか。

「俺は一緒に帰りたかったのに」
 いかにも何気なく、というふうに沢田が言って、瞬間周囲の温度が下がったような気がした。

「何だかんだ言っていつも獄寺君が一番俺の言う事なんか聞いてないし、俺の意思なんか無視してるよね」
「そん、な・・・」
「あぁ一番はリボーンかな。あいつは君と違って本当に強いしね。逆らえやしない」
 続けざまに言う沢田に獄寺は動けないでいる。それは確実に沢田の意図だろう。
「まぁ君だって俺よりずっと強いけどね。だから俺は君にも逆らえない」
「そんなこと、」
「君達がそうやって俺をこの世界へ引き込んだ所為で、俺はいつ死んでしまうかも分かんないよ」
「・・・言わないでください」
「君は俺を守れるほど強くないし」
「・・・」
 遂に黙ってしまった獄寺に沢田は笑った。

「そんな君がいつまでも俺の右腕だとか言ってたら君まで長生き出来ないんじゃない?」
 笑顔のまま続けた言葉に、獄寺は顔を上げる。
「それはいいんです。俺は、10代目をお守りする為に右腕になるんですから」
「ふーん。俺の為に死んでくれるんだ」
「はい」
 静かに、真剣に、真っ直ぐに、獄寺隼人は誓う。
「はは、今すぐでも?」
「・・・はい」
 嘲るように言う沢田に、一瞬傷ついた顔をして、けれども獄寺は躊躇いなく返事をした。

「そう。じゃあ帰ろっか獄寺君」
「え、あの・・・」
 ぱっと穏やかに笑う沢田に戸惑うように。
「何? あんまり遅くなりたくないんだけど」
「あ、いえ・・・、はい! 帰りましょう10代目!!」
 全て忘れたように(きっと全ては深く刻まれただろうけど)、獄寺も満面の笑顔で答えた。

 そのまま校門の方へ歩く。沢田は獄寺を見ない。僕は彼らから一度も目を離せなかった。
 沢田から獄寺へ視線を滑らせる。
 瞬間、

 突然こちらを見上げた獄寺隼人と視線が絡んだ。

 彼は少しだけ目を見開いて、けれども直ぐに視線を逸らして沢田に続く。
 じゅうだいめ、といつものように冗談のような呼称を叫んで隣へ並んだ。とても幸せそうに。

 あんなふうに、笑って、擦り寄って、ああなれれば少しは楽になれるのだろうか?
 僕と沢田の間にあるものは何か変わるのだろうか。
 いや、きっと無理だ。どちらも。

「・・・あ、委員会、行かなきゃ」
 ぐらぐらする視界に耐えかねて手すりに縋る。
 頭が痛い。苦しい。上手く息が出来ずにひゅうと喉が鳴った。

 こんなの、違う。
 僕は一人で生きてきたしこれからだってそうだ。
 群れるのは嫌い。あんなに尽くして擦り寄ったって、何も得るものなんかないじゃない。それに、

( ・・・振り払われたら、どうすればいいの )

 まるで防御癖を持たない僕は。
 あぁ、もしかしたら、無理矢理笑って沢田の隣を歩く彼は凄く、強いんじゃないだろうか。

 違う。そうじゃない。僕は、誰かを求めるなんて、しない。
 僕が愛するのは僕と並盛だけだ。
 怖いものなんて、ない。

 この先まかり間違って僕と彼がどうにかなったとしても、僕はその時も孤独なんだろう。
 振り払われたら、と思ったけれど彼はきっと振り払ったりはしない。
 その代わりに手を伸ばすことも視線を向けることもその心に留めることすらしないのだろうけど。

 だから、それでいい。
 どうせどうにもならないのだから、この胸を刺すものが何だったって関係ない、んだから。

( きもち、わるい )

 でも、委員会に遅れる訳には、いかない。
 意志の力で踵を返す。
 勢いよく閉じた扉が背後でがぁんと冷たい音を立てた。


 雲雀さんは防御が凄く弱いから先に攻撃して守ってるんじゃないかなぁ。
 綱獄と綱雲の同居が見たいのによそじゃあんまり見ないので自給自足。
 これの獄寺視点書きたい(言うだけならタダ)。

真に孤独を愛するのは野獣くらいなものである。

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