□私の想う貴方達の為に
1ページ/1ページ

「ボス、何見てるの?」
「・・・クローム」
 ノックもせず突然扉を開けたクロームは、俺の手の中に目を止めて興味深そうに大きな左目を細めた。
 ああ、タイミングの悪い・・・。

「ボス?」
「君のね、カルテを見てたんだ」
 どうとでも誤魔化せたがそのままを口にする。
 初めはシャマルに診断して貰おうとしたのだが、クローム自身が嫌がったことと、彼も幻術の類までは知識が及ばないから正確な結果が出せないかも知れない、というので、裏から手をまわして入院時のカルテを手に入れたのだけど(俺は彼女の名前を知らないので称号に手間取った)。

( あんまり、見せたくなかったんだけどなぁ )

 勝手にこんなものを見る所は。
 一応、彼女も女の子だし。いや、それは男女差別だしクロームは気にしないだろうけど。
 綱吉は自分が幸せに育った自覚があり、だからこそ他人の過去を覗き見るようなことは厭うていた。

「私の・・・?」
 クロームは綱吉に歩み寄って手元を覗き込む。
「うん。一応状態を知っておきたかったから」
 ボンゴレに身を置く者の身体情報は殆ど管理されているが、彼女の身体は簡単に他人に任せる訳にはいかない。
「・・・右目、胃、脾臓、膵臓、腸の大半、・・・肝臓、と、・・・子宮もないんだね」
 5年前の日付を記載されたカルテに目を滑らせながら言うと、クロームはうん。そうみたい、と感慨もなさげに頷く。骸に救われたというけれど、それまで辛うじてでも生きていたのは彼女自身の力か。
「そっかぁ・・・」
 流石に哀れに思えて、いつの間にか随分低く感じるようになった頭を撫でてやる。
「ごめんなさい、ボス」
「どうして謝るの?」
「だって、ボスの子供が産めない。幻覚の子宮じゃあ、月経が来ないから」
 至極真面目な顔をして言うクロームに綱吉は少し眉を寄せて微笑んだ。

「いいんだよ。俺には好きな人がいるから」
 おいで、と膝を示すと、クロームは素直にそこへ腰かける。
 京子よりも小柄な分やはり軽い(ハルの体重は自分の預かり知るところではないので分からないが)。幻覚のそれだけれど内臓にも質量はあった筈。
「じゃあ、その人が十一代目を産むの?」
「・・・別に、次のボスが俺の直系である必要はないし、分かんないな。その人にはまだ結婚して下さいとも言ってないしね。それに、俺は出来れば後継ぎなんていなくてもいいようにしたいんだ」
 それは本当に難しい、というか不可能に近いことだけれど。
 セットが乱れないように気をつけながら髪を撫で、これじゃ逢引きのようだとひとり苦笑する。
 そうだったらその子の前で結婚するとかしないとかって、どんな浮気者だよ俺は。
 ・・・いや、一般から見て浮気者なのは否定しないが。

「良く分からないけど、そうなって欲しいな。私、ボス以外のボスは嫌」
「そう。ありがと、クローム」
「だって、骸様がそうだから」
「・・・そう」
 あいつは仕えたくなかったら仕えないだろうけどね。
 胸中で付け加えて、クロームの身体を膝から下ろしてやった。

 相変わらず臆病な俺だけど、自分以外の為なら幾らも頑張れる。
 大丈夫だ。奇跡なんて幾らでも起こる。何度だって起こせる。
 俺がとうとうこうしてマフィアのボスになったくらいなのだから。

「まぁ、俺もそうなるように頑張るからさ、それまでは宜しくね。クローム」
「うん。頑張る」
 クロームは短く誓うと、そのまま実にあっさりと部屋を後にした。

 ・・・結局何しに来たんだか。
 立ち上がろうとするといつの間にか膝の上に数枚の書類が乗っていて、一人また苦笑した。


 綱髑? 骸が行方不明になる前。
 綱様は高校までは学校行きながら修業して勉強して、卒業してからボス就任ってことで。
 クロームってボンゴレ本部にいたんでしょうか? 接触はあったと思いますけど。
 綱様とクロームは兄妹みたいな関係。いや、同い年だけど。

期間限定、運命共同体

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ