□君はそのままで
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「じゃあ、そういうことでいい?」
「うん。じゃ、行ってくるね、ボス・・・」
「あ、待ってクローム」
 書類を受け取って踵を返そうとしたクロームを綱吉が呼び止める。

「ちょっと骸出してくれる?」
 クロームは少し怪訝そうな表情を見せたが、けれども何も言わず大人しく目を閉じた。
 すうと背が伸び眼帯が消え、開いた左目は血のような赤で。

「どうしました綱吉君、必要事項はもう全部伝えたでしょう」
 ぱらぱらと手の中の書類を捲り、標的の顔や住所を改めて確認した骸は、先のやり取りと矛盾した部分はないのにと綱吉を見やった。
 綱吉はうん、クロームには言わなかったんだけど、と前置きする。

「今回の標的の男がさ、もう何年か女の子監禁してるらしいって聞いたんだよね」
「へぇ」
「で、ちょっと」
「見るに堪えない惨状が予測出来るので乗り込む際にはクロームと代われと」
「・・・まぁ、そういうことだね」
 背もたれに体重をかける。きし、と小さく軋んだ。

「了解しました。クロームには悪いですが勝手に代わることにしましょう」
「うん。お願い」
「しかし・・・」
 クロームに見せたくないという配慮は分かる。
 彼女は大マフィアボンゴレの幹部で言ってしまえば人殺しだが、今でも正常な感覚を持っている。それでも人を殺して何でもない顔をするのは一重に彼女の強さと覚悟故だ。
 だから凄惨な場面では骸が出ることも多いし、以前に綱吉が出来るだけそうならないように気を使ってもいる。

「今は皆そこまで忙しくないでしょう」
 クロームに殺しの仕事が回ってくるのはそもそも他に幹部級で出られる者がいない場合が殆どだ。
 今だって勿論暇ではないが他に回せない程ではない筈で、増して事前に骸に頼むほど明確にその惨状が予測出来るなら何故クロームに頼むのか。
「そうなんだけどね、っていうか、今回はクロームへの仕事じゃないんだ」
「はぁ」
「お前に頼んでるんだよ、骸」
 どういう風の吹き回しだ、と綱吉を伺うように骸が眉を上げた。

「・・・そいつ、結構人殺したりもしてるんだけど、やり方が、かなりアレで・・・さ」
 もう、凄惨な場面も狂った人間も飽きる程見てきた綱吉に、けれど、と思わせるような残忍なやり口で。
「だから、嫌なんだ。クロームも、獄寺君も山本もお兄さんも雲雀さんも」
 そう思わせる彼らは侮られているのか、

 愛されて、いるのか。

「仮にもマフィアの幹部に情操配慮ですか?」
「ううん、俺が嫌なだけ」
 綱吉は自嘲するように笑った。

「本当は俺が行こうかと思ったんだ。でも、ほんと最低なんだけど、俺は行きたくない」
「・・・君はそれでいいんですよ」
 これで断って君を行かせたりしたら、僕は嵐と雲辺りに酷い恨みを買いそうだ。それはそれで面白そうだが。

「出来れば、助けてあげて」
「えぇ、無理ならちゃんと処理して来ますのでご心配なく」
 特に皮肉のつもりもなかった。今更綺麗事を並べたって仕方無い。

「本当はね、お前だって嫌なんだよ、俺」

 眉を寄せて呟いた綱吉に、大量殺人犯に向かって失礼な人ですねと骸は笑った。


 ちょっと軽いオチだけ思い付いて、そこに向けて書いてたのに思いの他ドシリアスになったので変更。
 19巻の「あくまで骸とクロームを仲間として〜」ってのはこういうことかなーとか。
 まだボス就任したばっか。もう少ししたらこれくらいは皆こなすようになります。

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