コロコロ系
□航海の唄
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かつて、絶対王者等と呼ばれていた時がある。
その頃の俺は、全国4連覇を誇って、戦うに値すると思う相手だけを叩き潰しては笑っていた筈なのだけど。
いつでも飢えて、渇いて、退屈だと感じていた記憶だけが、色濃く残っている。
蒼井バルトが俺の前に現れ、初心者同然から全国大会を駆け上がり正面に立ったヤツとの個人戦決勝。接戦の末、偶然から5連覇を果たして暫し。
舞台は自然国外へ移り、紅シュウの仮面の下の本音をせせら笑って、無敗を誇っていたフリー・デラホーヤをも下して、漸く何かが埋まった心地がしたのも束の間、
ゴッドブレーダーズカップで魂を剝き出しにしたフリーに、地獄を背にした紅シュウに破れ、ロンギヌスはかつてのスプリガンのように両断された。
けれど、そのロンギヌスの光は、俺を確かに照らし出したのだ。
それから2年間、
紅シュウが贖罪を求めて後継を指導している間。
最強として君臨し続けた蒼井バルトが先導としての振る舞いを身に付ける間。
自身の心だけを、見詰めて過ごした。
そうして、新たな相棒をこの手にした時、気付いたのだ。
世界は、自分とロンギヌスだけで満たされるのだと。
誰と競い合って行くのだとしても、倒した相手の心を折る必要も、倒された相手を歯軋りして睨み返す必要も無かったのだ。
お前はダメなブレーダーだと言い放つ必要も、イレギュラーでの勝利を拒む必要も無い。
俺は俺だけの世界を歩いていれば、蒼井バルトと、紅シュウと、赤刃アイガと、レーン・ヴァルハラと、
自然、道は交わって対峙する。
そう、弱者も、強者も、勝利も、敗北さえも笑って迎え撃てば良い。
世界は、こんなにも面白く出来ているのだ。
自覚すれば、少しずつ世界から音が消えるようだった。
ロンギヌスとの共鳴が、益々研ぎ澄まされて行くのが感じられた。
嗚呼、此れが、俺の生き方なのだ。
5人総当たりの混戦や、ランダムタッグ等を経て、蒼井バルトさえ破られたレジェンドフェスティバルが閉幕し、新世代が台頭する中で宣言された次の舞台。
『失望!? そんなんさせっかヨォ!』
『お前とのタッグ気に入ったぞ!』
「来てやったぜ!」
ヘリの爆音に負けじと響く声。射貫く眼光。
「お前となら面白いバトルが出来そうだ」
前だけを見て進み続ける生き方を、随分前に選んだのだけれど。
タッグリーグというルールの中、気まぐれに虹龍ドラムへ差し出した手は存外強く握り返された。
そうして始まったレジェンドスーパータッグリーグ。第1戦で蒼井バルトと黄山乱太郎を破り、以前好きにやれと突き放したにも関わらず作戦を問うてきたドラムに分断作戦を授けた第2戦、
「行かせると思った? ルイ・・・」
こちらの作戦を逆手に取られ分断を喰らい、それでもファブニルだけは相打ちに持ち込みながら、残ったサタンの存在を得意げに笑うフリーに、俺は少し呆気に取られてしまった。
思えばレジェンドフェスティバルで俺と組んだ時にもそうだった。
いつの間にか、彼の怪物然とした部分はすっかり鳴りを潜めていた。
命を削り落としながら、死ぬまで勝利を掴み続ける為に駆けていた怪物は、
かつてバルトや俺さえまともに認識もしていなかった孤高の生き物は、対象は随分狭いながらも他人に苛立ち、信頼し、煽り返しさえして、
今になって情緒を培って行く様はそれはそれでなんだか人外じみているが、
それが、彼が選んだ生き方なのだろう。
第3戦、三度挑んだレーンへのリベンジ叶わず、しかし漸く紅シュウの思惑も理解し、
第4戦で大会序盤は何やら苦戦していた朝日兄弟の確かな力と想いを見送って、
総当たり戦も、これで最後。
ドラムはレジェンドフェスティバルでシスコに宣言して成し得なかったという打倒赤刃アイガを果たし、俺達は2勝3敗でアイガ達と並んだ。
次のヒュウガ達、バルト達の勝敗次第で決勝進出の可能性はゼロではない。
今しがた敗北したアイガと乱次郎も、まだ終わっていないと鼓舞し合って笑う。
( ・・・嗚呼、だが、これは・・・解ってしまうな )
熱狂の時間は佳境を迎え、俺達の舞台は閉じられようとしている。
「ルイ?」
何ひとつ理解していない、半眼を差し引いても大きな瞳が瞬いた。
この手を離す事を、惜しいとは少しも思わないけれど。
それでも1人深海へと歩み続けるような道の最中、ほんの一時寄り添ったこの光を。
この掌を擦り抜けていった虹のきらめきを。
「・・・お前とのベイブレードは楽しいぞ」
きっと、人は奇跡と呼ぶのだ。
+
るいるい何時の間にか「強さ」と「楽しさ」以外の感情捨ててしまってるというか、レーン君にバースト負けした時とか怒りやショックは意図的に排除してるように感じて。
そうやって1人で生きる事を肯定的に選んだるいるいがドラム連れて笑ってた時間余りにも奇跡では・・・と思って泣いてる。
タイトルは酸欠少女さユりの曲名から。