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□夕立の庭
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※未来。ミツバ編絡み。銀さん死後設定
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「泣かないアルか?」
3日前に銀時が死んだ、あっさりと告げた神楽は、同じく普段と何ら変わらぬ声のトーンでそう続けた。
今朝になって雨が上がったばかりの街は、どこもきらきらと輝いて。
ほんの3日前までは、「彼」も確かに、その中に居たのに。
昨夜とは一転して空は晴れ渡っているけれど、秋口の風は随分冷たい。
「・・・あァ。世界一イイ女との約束なんでな」
「ふーん」
神楽が興味薄く相打って、一緒に泣こうかと思ったのに、とぼそりと呟いたのが聞こえた。
聞いて初めて、そうかこいつも泣きたいのかと気付く。どうにも、彼や彼女の強さを測りきれない分だけ過信している。とはいえ実際、少なくとも自分よりは余程彼女等は強い。
「今なら、分かるんだ。あん人達も、俺と同じだったんだ」
「?」
神楽がじぃと総悟を見詰める。意味不明だろうに先を促したりはしなかった。
( ・・・ただ、幸せになって欲しかっただけだったんだ )
愛しい人が、笑っていられますようにと。
ただただ、それだけだった。
だから、自分も、
「幸せに、ならなきゃいけねェ」
「・・・幸せとか、不幸せとかは、『なる』為のモノじゃあないヨ」
諭すように、神楽は言う。枷にしないように、と。
「ああ、分かってらァ」
もう随分前。
ミツバが江戸を訪れ、そして生きて帰れなかった。
看取ったのは自分ひとりで、
最期の彼女は、いつもの笑顔で、
『お前、長ぇこと泣いてねぇんじゃねーの』
どうしてだったか、ふたりきりになった万事屋で、銀時は前触れなく言った。
『はぁ、まぁ、一応オトコノコですんで』
そんなふうに、曖昧に返して。
銀時がミツバの遺言を知る筈はないが、彼の前では割合涙腺のゆるい自分が一年も涙を見せないのは不思議だったのかも知れない。
銀時の視線は逸れない。
『・・・姉上にね、言われたんでさ』
ミツバは、その生の終幕に、
立派になったと、強くなったと、こんな自分に言ってくれて、
そして、
振り向いてはいけないと、泣いてはいけないと、
一方的に、言い付けて逝ってしまった。
ずるいと思う。
生まれて初めて、最愛の姉を悪く思った。
それでも、姉が死んだその瞬間に泣いてしまった自分も大概ずるい。
そう、自覚していたからか、ミツバの通夜でも、葬式でも、一周忌でも、総悟は涙一つ流せなかった。
『もう、1年以上経つんですねィ』
ぽつり、呟く。刹那、視界が何かに覆われて、伝わる体温から銀時の掌だと察した。
『旦那?』
『俺が、謝っといてやるから』
泣け。
短く、命令が下って。
『・・・だ、駄目、でさ。だって、俺、』
『いーんだよ。約束なんざいつかは破られる為にあんだ。そうやって泣いて、泣いて、ちゃんともう一回笑えるようになったら、てめーの姉ちゃんだって笑って許してくれるさ』
『う・・・、ふぅ、く・・・っ』
そっけなくて、けれども優しい許容の言葉に、やはり彼には甘えてばかりだ。
『勝手なこと言って、姉上に怒られんなぁ絶対ぇ御免ですよ俺ァ』
一方的に縋った癖に精一杯虚勢だけは張って、気分を切り替えるようにきつくスカーフを結び直す。
『んじゃあ、俺の所為ってことで』
『いたいけな子供泣かすなんざ、あんたァとんだ人でなしでい』
泣き腫らした自分に凄みなぞある訳もない。案の定銀時は何を今更、と言って口元だけで微笑んだ。
『旦那』
『ん?』
『ありがとうございやす』
とてもそんな言葉一つで片付けられる気持ちではないのだけど、幾ら口にしたってきっと足りなくて、出来なくて、だからそれだけを。
銀時はいつもの無表情であー、と言って、
『大親友ですから』
穏やかに笑った。
『振り返っちゃ・・・ダメ』
『謝まったり・・・したらダメ』
『泣いたりしたら・・・ダメ』
君の声。
君の言葉。
君の気持ち。
忘れることが幸せなら、俺は幸福になぞなりたくもない。
本気で、そう思うのに。
『私めいっぱい幸せになってあの人達を見返してあげるの』
『そーちゃんを安心させてあげなきゃ』
『幸せにならなきゃね』
あの人はそう言っていたと、旦那が教えてくれた。
俺達の為に、幸せになるのだと。
ならなければ、いけないのだと。
「おめーみてぇなお節介も居る。帰る家もある。俺ァちゃんと幸せでさァ」
「沖田・・・」
珍しく、神楽が自分を名前で呼んだ。
「そんな、心配してくれなくても大丈夫でィ」
少なくとも、海に飛び込んだりはしねぇさ。そう続けようとして、我ながら冗談に聞こえなかったので辞めておいた。
けれども、このまま消えてしまおうか、そうは思わないのは確か。
「もう、夏も終わりアルな・・・」
神楽が傘をずらして夕日に染まり行く空を見上げた。
秋色の混じる空はただ高くて、儚くて、物悲しくて、優しくて、そして遠い。
『てか、俺が先に死んだら結局俺が自分で謝るんじゃねぇかィ』
『や、それは大丈夫でしょ』
銀さん、多分そんな長く生きないから。
帰り際、その言葉に振り返った時には既に扉は閉ざされていて、表情を窺うことは出来なかったけれど。
彼は其の時どのような顔をしていたのだろう。
最期の瞬間には、何を想ったのだろう。
果たして彼は幸せだったろうか。
笑っていただろうか。
自分がそれを知る日は永遠に来ない。
きっと想ったのは自分のことではない。
けれども笑っていたのならそれでいいと思う。
そして、確かに、
『だから・・・・・・私・・・・・・、とっても・・・幸せだった』
あの人は最期に、そう言った。
「私、帰るヨ。新八達が待ってる」
「・・・あぁ、俺も」
傍らに放っていた隊服の上着を取り上げた。そういや巡回の途中だったんだっけ。
旦那の所へ行ったあの日も、スカーフ巻いてたんだから仕事中だったのか。
思い出すのは無意識。
もう、泣かないよ。
「じゃあ、ネ」
「ん、またな」
互いに反対方向へ歩き出して、ぎゅうと目を瞑って涙を堪えた。
( ・・・謝っといてくれる人も、もう居ねェしな )
+
ようやく手を付けましたミツバ編。しかし何故銀さんまで死後なのか。別に何年後でもおkです。
ミツバさんの「幸せにならなきゃね」に凄い引っ掛かって、でも「幸せだった」って言うならそうだったのだろうなぁと思って。
でも「泣いたりしちゃダメ」はうっかり重く受け止められたら大変じゃなかろうか、とか思ったり。
「私を置いて行くんだもの」とか、恐らく意図してでしょうが傲慢な言い回しする人だなぁと思う。そこがまた魅力。
まぁ、甘やかして育てて来たらしいから、一つくらいは厳しい言い付けがあっても良いかもねと。
心に決めた事がある もう二度と君のせいで傷つかない
海の底で目覚めるよう 遠い光を思い出してた
色んな想いが混ざり合って ただ涙みたいに止まらなかった
君の笑顔かき消して 僅かな希望摘み取り去るよ
きっと忘れられない 大切な日々を過ごしてる
幾度激しい雨の中 全てが流れても
byGC 『夕立の庭』