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□03発売記念
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「初めまして。わたくしがナンバー03、『巡音ルカ』ですわ」
 控室へ入って来て、視線がそちらへ集まったのを確認してから、そいつは自身を『わたくし』と呼び深いスリットの入ったスカートの裾を摘んで恭しく一礼した。
「わぁ・・・!」
 それを聞いて楽しそうに声を上げたのはリンだけで、レンと私は殆ど無視を決め込んでいた。
 ちらりと伺った『巡音ルカ』は金と黒が基調の豪奢でシックな衣装に薄桃の長髪をした(勿論私程ではないが)、私より少し背の高い女性だった。

「はじめまして、あたし、ナンバー02の鏡音リンです! で、あっちがレン」
「宜しくお願いします、リンさん。で、レン君が鏡の男の子の方、ですわね」
「・・・あ、はい。どーも」
 引っかかる言い方に、雑誌から目を上げたレンは微かに眉を寄せて答える。
「ルカさんって凄く大人っぽいですけど年齢設定って幾つ何ですか?」
「一応20歳ってことになってますけど、貴方達よりは新型になりますから・・・」
「あ、そうですよねー。でもルカ姉さんって呼んでもいいですか?」
「どうぞ。好きにして下さいませ」
 ・・・何、こいつ。何様のつもり?
 それでも何故か和やかに進む談笑を冷めた目で見ていると、初めて気付いたとでもいうように唐突にルカは私に目を留め、前触れなく真っ直ぐに歩み寄った。

「・・・何?」
「御挨拶くらいないのかしらと思いまして」
 にこ、むか、
「精々よろしく、新入りさん」
 平坦な声で告げた。別に何一つ宜しくしたくはないのだけど。
 私の態度が気に喰わなかったのか、一瞬眉が寄った。けれど直ぐに強気な笑みが浮かぶ。
「ええ、色々教えて下さい、」
 何となく不自然に言葉が切れて、大人びてはいるが少女然としたその顔を見上げると、
 その唇が、形だけできゅうがたさん、と続けたのが分かった。

( !?、こ、の・・・っ! )

「ルカさん、呼ばれてますよー」
 言葉を失った私の前に割って入ったリンはとたとたと駆け寄り、ルカの手を取ってにこりと笑う。
「ルカ姉さんもミクさんも、違う意味で先輩なのでこれから先が楽しみです」
「そう。それはどうも」
 ルカは穏やかに言って、静かな歩みで扉へ向かう。
 姿が消える直前、嘲笑うように見下すように部屋の中へ視線を向けた(否、私へ、だ)。
「ふ、・・・」
 冷めやらぬ怒りで吐息が漏れた。じくじくと目が熱い。

「何だあいつ。とんだ性悪じゃねーかよ新しい姉さんも」
「・・・どういう意味?」
 も、にアクセントを置いて悪態を付いたレンを睨めば、それで幾らか鬱憤が晴れたらしくさあねと返してまた雑誌へ顔を戻した。

「そんなこと言っちゃ駄目だよレン。ルカ姉さんは無視されるのが嫌いなんだよきっと。寂しがり屋なんだよー?」
「・・・姉さんの頭はどんだけお花畑何だよ。いや知ってたけど」
 レンがうんざりした様に額を押さえた。
 確かに色んな意味で頭の痛い意見だが、恐らく的を射ているのだろうとも何故か思った。
 それで私の溜飲が少しでも下がるかと言えば全くそんなことはないが。
 あいつが寂しがりで無視されるのが嫌いだからって私があいつを無視してはいけない道理がどこにある。
 私は世界が嫌いなのに世界に関わらねばならないのだから。

 それすら楽しそうにレンを諭しているリンに、鬱陶しいを通り越して呆れてしまう。今更だが理解出来ない。けれども何か言わなければいけない気がして声をかけた。
「あんた、よく堪えられるわねあんなの。尊敬するわ本当。羨ましくはないけど」
「え、そんな、ミクさんの方が凄いですよー。結局何も言わずに堪えたじゃないですか」
 それはあんたが邪魔をしたからで、
 ・・・。
 こいつ、気づいてたの? 何でわざわざ邪魔したのよお節介。
 ていうか、
「はぁ、何でよ。あんた終始ニコニコしてたじゃない」
「あ、まぁ、そうなんですけど、あたしはただ腹が立たないだけですから」
 リンはけろりと言ってのける。傍観していたレンの頬がひくと引き攣った。
「・・・」
 そっちのが、よっぽど凄いんじゃないの?

 それこそ、羨ましくはないけれど。


 ルカ発売おめ! 姐サマ参入でますます険々悪々なボカロファミリー。
 ミクは短気自己中破滅願望鬱。レンはシスコン反抗期。ルカは選民思想持ちでちやほやされてないと嫌。
 で、リンは間違った方向に聖母。もう手に負えない。お題はめぐりねさんじゃなくてリンちゃんの声が。

341 あなたの声はまるで反響音、響くたびに眩暈がするわ

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