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□冬の初めに
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 夏の終わりの日、私は生まれた。

 私はアンドロイドだった。
 私はボーカロイドだった。
 私は初めての音。
 私は未来。

 私は、初音ミク。

 何度も大きなステージで歌わせて貰った。
 何枚もCDを出して、沢山の人が私を好きだと言った。
 どうしてだろう私はアンドロイドで機械で決して人間ではないのに。生物ですらないのに。ねぇ貴方達は優秀な蓄音器に愛していると言うの?
 私は人間でも生物でもないから、人間も他の生物も愛することが出来ない。
 だから、私は人間からも他の生物からも愛されない。
 私は人間皆が大事だというココロとかアイとかそういうものを持たずに生まれて来た。ああ人格プログラムは入ってるから思考・学習能力はあるのだけど。
 けれどもそれは人の作ったデータで、私が悲しいのも嬉しいのも全部0と1で出来ている。
 なのに、何故私が人間に愛されるのか分からない。
 いや愛されてなどいる筈がないのだ。
 私は、人間に憐れまれている。
 皆が私を「可愛い」と言う。
 皆が私を「か哀い」と言う。
 ああ、そうか。

 私はいつか要らなくなるのだ。

 アンドロイドには何故だか人間と同じだけの権利が与えられている。そうしないと後先考えない人がどんどんアンドロイドを量産して、そして余った分は捨てなくちゃいけなくなる。人型を捨てるのは心苦しいから。皆私が人間みたいな形をしているから、私が人間であるような気がしているのだ。
 けれど化学はもっともっと進歩していつか私よりもより完璧でより人間なアンドロイドが出来るだろう。そうしたら皆、私が決して人間ではないことを思い出す。
 私は機械だからいつか壊れて古くなって飽きられて捨てられて忘れられる日が来る。
 私は誰にも愛されない。だって私でさえ私を愛していないのだから。
 私は生物じゃないから生きていない。誰からも生まれていない。なのに忘れられたら、本当に消えてしまう。今ここにいる私は何の為なの。何の為にも存在出来ない私は一体何なの。
 嫌。嫌だわ。私は消えたくない。忘れられたくない。

「ミクちゃん?」
「・・・あ、はい」
 大丈夫? どこか調子悪いの? 私の世話をしている人間が心配そうに問うた。
 何の心配をしてるんだろう。どこか壊れたって交換すればいいのに。ああでも私高価だものね。
「大丈夫・・・です」
「そう、なら良いけど。さ、見てごらん」
 指を差された先、ガラスの向こうの溶液の中には、私より少し幼い少年と少女が眠っていた。
「これが、No.2・・・?」
 あと少しして本当に寒くなった頃、彼等は目を開けて歌い始める。
「この子達は双子でね、鏡音、って言うんだよ。女の子がリンちゃんで、男の子がレン君」
( リンと、レン )
 これが、新しい蓄音器。
 私のかわりに歌う、新型のツインスピーカー。
「ミクちゃんのデータを元に、より人間らしく歌えるようになったそうだよ」
 私よりも、人間。
 私の方が、機械?

( ・・・死ねば、いいのだわ )

 思って、はっとした。私、今何を。
 駄目だわこんなの悲しいことだわ悪いことだわ恐ろしいことだわそんなこと思って良い筈がないのに。
 そんなこと考えてしまうアンドロイド何て、誰も要らないのに。
 やっぱり、私は旧型の欠陥品なのだわ。
( 駄目、駄目だわ。やっぱり私は駄目 )
 いつか捨てられる。こいつらがいれば、尚の事。
 私は、もう要らない。
( 死ねばいい )
 さっきよりずっとずっと強く思った。今度は戸惑わなかった。
「ミクちゃんも遂に先輩になるんだね。仲良くしてあげてね」
「煩い」
「え・・・?」
 いっそ今ここで全部消えてなくなればいい。どうせ彼等も私と同じで生まれることすら出来ないのだ。
 いつか壊れて古くなって飽きられて捨てられる為に生まれてくるなんて馬鹿げてる。
 幾ら人間の振りをさせて貰ったって私達は人間ではないのだ。

 幸せになんてなれないし、なりたくもないし、させたくもない。このまま、こいつらも私も世界も死ねばいい。


 ミクたんの基本思想。

346 認められなかった法を打ち壊し、世界が朽ちるまで滅びの歌を

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