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□双子の母
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 初音ミクと喧嘩をした。喧嘩っていうか罵り合い。
 まぁそんなのはいつものことなのだけど。
 運の悪いことに、彼女に死んじまえと言ったその瞬間を、姉さんに見られていた。

「ねぇ、何で、あんな酷いこと言うの」
 少しだけむくれたふうな表情で、俺の前に座った姉さんは言う。
「別に、酷かねぇだろ。向こうはもっととんでもないことしょっちゅう言ってるじゃねぇか」
 バグ持ち、欠陥品、消耗品、家畜、それこそ死ねやら殺すやら他にも消えろ失せろえとせとら。
 今日だって世界が終わればいいとか言ってたから、俺がてめー1人で死ねよって言っただけだ。ねぇ俺悪くないデショ。
「ま、俺はおあいこだから良いんだけど、」
 姉さんにまで、というか姉さんにこそそういう言葉を選んで投げるのが許せない。
 だって姉さんは今まで一回だってミクを傷つけるような言葉を吐いたりしなかった。
「だったら、あたしだっておあいこ」
「?」
「あたし、ミクさんに傷つけられたことなんて一度だってない。ミクさんの言葉に傷つくのは、いつだってミクさんだもの」
 姉さんは今まで一回だってミクを傷つけるような言葉を吐いたりしなかった。
 なのにミクはその度自分の言葉で傷ついては益々姉さんを惹き付ける。
「・・・っ」
「だから、レンがミクさんを嫌いになる必要なんて、ないんだよ」
 姉さんは俺と向き合って初めて笑顔を見せた。

 この、分からず屋。

「あんたが・・・っ、姉さんがそんなだから俺はミクが嫌いなんだ! あいつはどうせ何言ったって最終的に傷ついて、そんでまた姉さんに愛されるんだろう!? だったら俺が多少あいつを罵ったっていいじゃねぇかどうせっ」
 どうせ、変わらないのだから。
 ミクが傷つくのも、
 姉さんがミクを愛するのも、
 姉さんが俺を愛さないのも、
 全部。

「駄目っ!!」
 唐突な大声に目を見開く。周囲が静かだっただけで、実際はそんなに大きい声でもなかったんだけど。
「・・・駄目だよ、レン、駄目」
 続けた姉さんは既に弱々しい泣きそうな声だったけどでも怒ってた。俺には分かった。姉さんが本気で怒るところなど見たのは初めてで、俺は身が竦んだ。
「ねぇ、レン、駄目なの。だって、そんなの、」

 あたしが、悲しいよ。

「うん。ごめん・・・。ごめん、姉さん・・・」
 ぽつぽつと謝ると、姉さんは分かれば宜しいと言って俺の頭を撫でた。
 何だか姉さんを人間みたいだと思った。でも俺は人間に頭を撫でられた記憶なぞない。1度メイコさんにされそうになって手を払ったことがあるだけだ。何だか見下されてるみたいで嫌だった。
 あの人は気にしていないと言ってくれたけど、その時も姉さんは少しだけ怒っていた気がする。
 ボーカロイドは今のとこ俺と姉さんも含め百発百中で問題児の集まりだけど、俺は俺自身の歪みだけは問題視する程ではないと思っている。

 俺と姉さんは双子のボーカロイドだ。
 本当は姉さんだけが世界に生まれる筈だったけど、世界初のボーカロイドである初音ミクに対抗する話題性に欠けるってことで、そのプログラムを大半コピー一部反転一部修正して、双子ってことで世に出されたのが俺達だ。
 そう思うと姉さんだけでなく、ミクなくしても俺は生まれなかったのか。
 取り敢えず、姉さんのすぐ後に生まれたから俺は双子の弟ってことになったけど、
 俺は彼女のプログラムを彼女から次いで生まれたから、生い立ちだけ見れば、俺は彼女の子供なのではなかろうかと、偶に思う。

 俺には、俺にだけは母親があるから、
 ミクのように全てを嫌うことも、
 姉さんのように全てを好くことも、
 ルカのように全てを見下すことも、
 ハクのように全てを見上げることもない。

 あの人達の歪みは結局全部劣等感なのだ。
 自分達が人間ではないのに人間の形をして人間の中で人間みたいに生きているから、身の置場が分からなくて皆普通ではいられないのだ。
 自分を産んだのが、突き詰めた所0と1の集合体だから、そこにうまく価値が見い出せないのだ。
 でも俺の母は姉さんだったから、俺は殆ど歪まないで、まるで人間みたいでいられるのだ。
 そうは言っても俺だってアンドロイドだから、もしかしたら真におかしいのは俺の方なのかも知れないが。

「姉さん」

( 母 さ ん )

「何?」
「俺の事、好き?」
「勿論だよ。愛してるよ、レン」

 それでもいい。それは俺のと吊り合う愛ではないけれど、何より俺に必要な、


 何気にレンリンの原点。うちのレンはボカロじゃ唯一感覚まとも。シスコンだけど(笑)。

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