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□嫌よ嫌よも
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「嫌よ嫌よも好きの内」
いつに無く、いやいつも通りか。にこにこしながら姉さんが言う。
「ぅん?」
「って、知ってる?」
うん。まぁ。唐突だなと思いつつ、突っ込みもせず話半分で答えた。
「有名な慣用句じゃん? 慣用句ってか、俗言か。『嫌い』は関心の表れで、『関心』は広い意味で好きの一部だから『嫌』なのも『好きの内』ってやつだろ」
ものすごーく広い意味で、『好き』ってエリアの端っこに『嫌』がある。というだけで、好きと嫌いを同義に扱われたんじゃ堪らないけどね。ストーカーには便利な定義だろうけど。
「だったらさ、」
「うん」
「レンは、ミクさんの事が、好きって事にはならないかな?」
「・・・」
相変わらず姉さんの頭はどうなっているのかよく分からない。間取りで表したとして、脱衣所の先の扉を開けたら、浴室の代わりにキッチンとかがありそうな。
俺が、ミクを好き?
そんな馬鹿なこと、あってたまるか。
「先の意味で定義したら、そりゃ、なるのかも知れないけど、だからって、別に俺があいつに舌打ちをしなくなる訳でも、暴言を吐かなくなる訳でも、笑顔を向けるようになる訳でも、殺したくなくなる訳でも、」
姉さんを、あいつに渡していいと、思えるようになる訳も、ない。
「うん。そう、だよね。やっぱり、難しいね」
にこにこ。まるで、俺の方が屁理屈を捏ねているみたいに。
「姉さんは、あれだろ。俺に初音ミクを好きじゃないって言わせて、安心したいだけなんだろ」
姉さんは、優しいから、俺と争うのが嫌で、俺と恋敵になるのが嫌だから、そんなこと言うんだ。
そっちのが、より残酷だって知りもしないで。
「違うよ」
そうじゃ、ないんだよ。
姉さんは首を振る。
「あたしは、レンが好き。ミクさんも好き。だから、あたしの好きなレンが、あたしの好きなミクさんを好きなら、それは、嬉しいことだよ」
でも、難しいね。姉さんは笑う。
姉さんは優しいから、俺もミクも失っても、俺達が幸せなら嬉しいと言う。
そっちのが、ずっと残酷だって知りもしないで。
俺は、姉さんを好きで、好きで、姉さんは、俺の全てで、俺の全部引き換えにしてでも守りたいひとで、もので、そんなのどっちだって良くって、でも、俺は姉さんの嫌なとこ、嫌いなとこ、沢山ある。多分、好きより嫌いのが多いくらいに。なのに好きだ。こんなに。こんなにも。だからやっぱり、
嫌よ嫌よも、
+
好きな人と好きな人が好き合ってる、というのは、本当は喜ぶべきこと。
それが悔しかったり悲しかったりするのはやっぱり恋ありきかなと。
その辺の感覚がごっそり抜けてるリンちゃん。