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□貴方のは赤色
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「きゃ・・・っ!」

 何故なのかしら。
 重心の位置も、この坂の傾斜も、今の風圧も、
 全部全部、計算され尽くしているのに、

 何故か、右足に少しの衝撃、傾ぐ身体。
 傾いていくカメラの端に『それ』を見付け、

( ああ、地面に、亀裂が・・・ )

 気付く。
 でももう遅い。
 下は紺青のアスファルト。
 やだ。嫌だわ。このままじゃ破れる。
 服が。手を付けば?でもそうしたら破れる。

 人工皮脂が。

「ルカ殿っ!」

 全身に少しの衝撃。でも服も肌も破れなかった。
 止まった視界は白と青。胸の部分だ。彼の服の。

「神威・・・」
「お怪我はないか、ルカ殿」

 わたくしの下敷きになった神威は、まずそう言って心配そうに笑った。
 彼はいつも笑う。

「・・・え、え」
「そうか、良かった」

 その顔を見ながら、引っ掛けた足がまだ痛いことを、言わなければいけないと思った。
 何を笑っているの貴方が愚図だからそもそもわたくしがこんな痛い思いをしたんですのよ。
 考えて、言わなければいけないと思った。のに、

 わたくしの代わりに地面に付いた神威の両手。
 見えないように袖の中に隠していたけれど、小石でも刺さったのかじわじわと赤く染まっていく布を見ていたら、何故だか喋れなくなってしまった。

 如何してなのかしら。
 何故わたくしは何も言えなくなってしまったのかしら。
 神威がどれ程血を流そうが骨を折ろうが究極のところ死んでしまおうが、
 それがわたくしの為である限り、なに一つ間違ったところなどありやしないのに。





 結局ロクに何も言えないまま一人控え室に戻ってブーツを脱いだら、硬い靴の部分は無事だったけれど、わたくしの右足の小指は少しおかしな方へ曲がっていて、破れた人工皮脂の間から黄色と茶色の間のような色の粘性の液体が滲んでいた。
 ずっとじんじんと痛かったのはこれだったのか、と思う。

( ・・・電話を、しなくては )

 このわたくしが損傷を負ったのだから、早くどうにかして貰わなくては。
 それからやっぱり、わたくしを天気が良いからだなんて理由であんなロクに整備もされていない道路へ連れ出して、挙句無様にも傷を負った上にわたくしを庇いきれなかった神威に文句を言わなければならないと思ったのに、

 神威のそれと余りに色の違う液体を見ていたら、何故だか喋れなくなってしまった。

 如何してなのかしら。
 何故わたくしは何も言えなくなってしまったのかしら。
 神威は所詮は人間だから、わたくしと違って血を流すし骨を折るし死んでしまうけれど、
 それがわたくしの為である限り、なに一つ間違ったところなどありやしないのに。

( わたくしを形作る全ては世界で一番良いものの筈なのに )

 わたくしの足を伝う油がせめて赤色であったならと、思ってしまったわたくしは一体如何してしまったのかしら。


 がくルカ2回目。自分が人間だったらなって無自覚ながらも思い始めてる巡音さん。

152 包帯に染みた赤は何を表して、いた?

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