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□毒痛み
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「あ、洪水の壺だ!」
 部屋へ入って2歩でそれに反応したアルルに、目聡いな、とシェゾは思う。
 まぁ特に隠している訳でもないのだし、ダンジョンでアイテムを捜索する事を考えたら飾ってあるような物かも知れない。
「良いなぁ。ねぇこれ頂戴」
「ふざけろ」
 アルルが速攻で反応を見せただけあって、そのアイテムはそれなりに希少で有用だ。
 何が悲しくて無償提供せねばならないのかとシェゾが思うのは当然で。
「女の子に頼まれて断るとか・・・」
「それは相手が懇意の奴か見返りがあるかすりゃあだけどな」
 今ここでならばプレゼントしようと謳った所で、アルルは明日出掛けたダンジョンでほんの少し楽に最上階へ辿り着いて、そしてお終いだ。その頃には壺の入手ルートすら忘れている事だろう。

「何だよケチー・・・」
 アルルは理不尽に膨れながら、アイテムを並べている棚へ視線を滑らせて、
「じゃあこれ頂戴」
 言ったアルルが手に取ったのは山と積まれた毒消し草の1つで、シェゾは訝しげに片眉を上げた。
「好きにすりゃ良いけど、そんなの、お前だって腐る程持ってるんじゃないのか?」
「まぁね」
 楽しそうに笑ったアルルは、勝手に開いた工具箱から針金を失敬して毒消し草を束ね始めた。
 上から下まで螺旋のように巻きつけられる針金に、あれでは咄嗟に外せまいにとシェゾは思った。
「・・・お前、針金とか食う訳」
「まっさかぁ」
 これは食べないから良いの。シェゾの表情が益々険しくなっても、アルルは笑みを崩さない。
「壺もね、良いけどね、あんな便利なの持ってたら使っちゃう」
 折角君がくれたのに。
 アルルはいっそオブジェじみた毒消し草を胸に抱き寄せ、シェゾはほんの一瞬それを花束のようだと思い、毒されているな、と額を抑えた。


 何か今までで一番甘い。
 タイトルは『ドクダミ』と読みます。

210 甘い毒にご注意

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