コロコロ系

□信頼の先に
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「あれ? リゾットか?」
 名を呼ばれて振り返る。
 視線を引き上げるまでもなく視界に入る赤髪は、
「ああ、久しぶりだな」
 フォンドヴォー、
 名を呟いて、リゾットは笑った。

「まだ旅してたのか」
「ああ、大体一月周期くらいで、旅と、城と行ったり来たりしてる」
「そうか」
 次期王様は大変だ、とまるきり他人事のようにフォンドヴォーは言う。
 事実他人事だ。変に共感されても困る。
「昼は食べたか。まだなら奢ろう」
「あ、ああ、すまない」
 持ち合わせは恐らく自分の方が多いだろうが、リゾットは大人しく好意を受ける事にした。

 いかにも下町然とした佇まいの店で適当にオーダーする。
 フォンドヴォーは元より、一時底辺の生活を強いられていたリゾットもさして食に煩くはない。
「コロッケには、会ったか?」
 運ばれた食事に手を付けようとした時、ぽつりとリゾットが呟いた。
「・・・あれから、か?」
「ああ」
 あれから。
 半年程前から。
 ビシソワーズパーティーが終わって、密かに地球が救われてから。
 フォンドヴォー達が禁貨を出し合いかき集め、バーグを生き返らせてから。
「いや、会いたいとは思ってるんだが」
 折角師匠が生き返ったのだ。早く会いたい。強くなった姿を見せたい。
 けれども彼等はらしくもなくひっそりと旅をしているようで、時折見たと言う人には会っても、本人は中々見付からなかった。
 もしかしたら、1つ所に留まって父子の時間をやり直しているのかも知れないと最近は思う。
「そうか」
 リゾットは気落ちと安堵の中間のような微妙な表情で息を吐いた。
 ぽつぽつと情報を交換しつつ皿を空にする。フォンドヴォーは弱い酒を少しだけ薦めたがリゾットは丁寧に断った(特に法令は無い)。

「じゃあ俺はもう行くよ」
「え? ああ、」
 言ったフォンドヴォーに、リゾットは意外そうな顔をした。
 まだ日は高い。偶然再会した仲間を離すには少々早い時間だった。
「もしかして、何か都合があったのか? だったら、」
「いや、そういう訳じゃないが、」
 悪い事をした、というリゾットの言葉を遮ってフォンドヴォーは言う。

「・・・お前、本当は俺が嫌いだろう?」

 少し眉を下げたフォンドヴォーが言い、瞬間安い冗談を言った時のような空気に満ちた。
「どう、いう・・・」
「ああ、嫌いというのは正しくないか? でもお前は、だ〜れだ大会を忘れちゃいない筈だ」
 リゾットは知らず半歩後ずさった。
 まさか、見透かされているとは思わなかった。

 フォンドヴォーやコロッケと、リゾットが出会ったのはバンカーサバイバルの時だった。
 コロッケにはかなり早い段階で喧嘩を売り、けれども彼は勝ち上がって、最終的に自分を打ち倒した。
 そして一端別れ、一足先にフォンドヴォーと再会したが、その時の彼は記憶喪失でカラスミの言いなりになっ(た振りをし)ていたので、1戦交える羽目になり、それからコロッケ達と再会して、『次の王様だ〜れだ大会』に出場してカラスミらを破り、禁貨に頼らず国を取り戻した。

「まあ、恨まれても仕方ないな」
「違う。あれは、仕方なかった」
 あの時はタンタンメンが近くに居たのだ。バレては全て水の泡になってしまう。
 だから、それは良い。例えあの時雲が出ず自分が大怪我を負っていたとしても仕方なかった。
 それでは、ない。
「・・・ただ、あの第4試合が、どうしても、」
 だ〜れだ大会の4試合目、リゾット達は2敗しておりもう後がない状況で、試合に臨んだのはコロッケと、未だ記憶喪失を装ったままのフォンドヴォーだった。
 途中でタネを明かし、これでコロッケの勝ちが決まったと、誰もが思った中で彼等は決着を付けると言った。
 その勝敗次第でリゾットの人生が(限りなく悪い方に)傾く事を知った上で。
「T-ボーンや、キャベツも、戦うのは好きだと言った。俺は、・・・・・・それが少し、嫌いだった」
 リゾットは元来争い事を嫌う性格であった。特に国を奪われてからは、何かを守る為以外に力を振るう事を良しとしなかった。
 理由もなく、力を使う事を誇ってしまえば、それはカラスミ達と同じだと思ったから。
「勿論、俺の偏見だというのは分かっているつもりだ。・・・でも、今の俺があるのはコロッケのお陰だと感謝しているのと同じくらい、俺は今も、お前を許せていないのかも知れない」
 リゾットの独白をフォンドヴォーは黙って聞き届け、それでも良い、と言った。

「・・・ただ、あまりコロッケを神聖視するな」
「っ!」
 それまで無表情だったリゾットが歯噛みした。
「神聖視何かしてない! あいつは俺の友人で、仲間で、恩師で、理想だ! 俺は何時だってあいつに救って貰っていたんだ!! 感謝の念を抱いて何が悪い!?」
 周囲の視線を常に気にするリゾットらしくもなく、往来で声を荒げる。
「お前に何が分かる! 事態は良い方に転ぶと、呑気に信じているお前何かに!! 最初から、師に、力に、恵まれていたお前何かに、コロッケの本当の価値が分かるものか!!」
 捲し立て、言った後で後悔するように唇を噛んだ。
「・・・そうだな。そうかも知れん」
 冷静なフォンドヴォーの声に、リゾットの眉は更にきつく寄せられる。
「だが、お前こそコロッケの何が分かる」
「!?」
「どん底から引き上げてくれた恩人だ。多少眩しくも見えるだろう。だが、お前のは少し行き過ぎだ。あと、徹底的に相手が悪い」
「何が・・・」
「よく思い出せ。お前が許せないと言った第4試合で、そもそも試合続行を言い出したのは誰だったか」

『何言ってんの! 俺、フォンドヴォーと最後まで戦うよ!!』

 あまりにもあっさりと告げられた台詞に、言うだろうとは思っていたが戦慄した。
 それでもフォンドヴォーは彼の稽古がてら話に乗り、勿論最後はギブアップするつもりだった。
『リゾットもなんとか言えよ!! これでもし、フォンドヴォーが勝っちゃったら、お前、王様になれねーんだぞー!!』
 猛抗議するウスターに内心苦笑して、そしてそれ以上の罵声を覚悟した耳に届いたのは、

『大丈夫!! 俺はコロッケの勝ちを信じてる!!』

 先以上の衝撃だった。
 リゾットの生い立ちを知って、彼の根本の戦闘嫌いは何となく伺えていたから尚更だった。

「コロッケはお前が思っている程お前の事を想ってないし、お前の正義感とは噛み合わない」
 このままコロッケを盲信していても、最早リゾットの得るものは何もない。
 本来ならもう城に留まるべきなのだ。コロッケを探してフラフラしている場合ではない筈だ。
 フォンドヴォーよりも、誰よりも、リゾット自身がそう思っている筈なのに、目的が『コロッケ』であるというだけで彼の正義は容易くねじ曲がる。
「信頼するのは良い。感謝するのは良い。けどお前は、」
「煩いっ!!」
 遮られた声に驚いて見下ろすと、ぽろ、と耐えかねたように一粒涙が落ちた。
「俺の気持ちは俺とコロッケだけのものだ! お前にも誰にも関係ない! あいつの事を分かった風な口を聞くな!!」
「・・・そうか。悪かった」
 せめて、『俺だけの』と、『俺の事を』と、言ってくれたなら安心出来たのに。

 今度こそ背を向けて別れを告げた。返事は無かった。
 幼い王子はいつか1人の為に愛する国を潰すのかも知れない。まるきり他人事のようにフォンドヴォーは思い、不快な想像を直ぐに忘却の彼方へ追いやって旅を再開した。


 フォンリゾ派の方いらっしゃったらすいませんでしたー!(スライディング土下座)
 ていうかもう色んな意味ですいません。ある意味このサイトらしい話ですが。
 王子の言い分は本誌購読当時の私の気持ちです。フォンドヴォー苦手だったのもあってマジで棄権しろやこいつ(待)って思ったので。

353 記憶喪失をうまくつかえ

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