コロコロ系

□どんな花よりたんぽぽの
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 さくっ、

 踏み締める地面は見渡す限り緑だ。
 法規制された訳ではないけれど、保護区域も同然のこの場所は、1年前の荒れようをすっかり忘れたように自然で満ちていた。

 さくっ、

 背後に、別の足音。

「え?」
「ケンタ・・・お前、なんで、」
「・・・君こそ」

 振り向いた先の正宗は、居心地悪そうに頬を掻いた。





「まあ、丁度1年経ったし、お祝いというか、追悼というか」
「あー・・・、うん。俺もそんな感じ、なのかなー」
 ネメシスクライシス。
 銀河とラゴウによる、地球をかけた戦いの跡地。
 未だ世界は復興に追われ、それぞれに役割を与えられたかつてのレジェンドブレーダー達も忙しく過ごしているようだった。
「・・・銀河は」
 数瞬躊躇ってから、正宗が呟いた。
「さあ、誘ってないからね。多分日本だとは思うけど」
「ふーん」
「もしかしたらここに居るかもとも、思ったんだけど」
 けれど、漸く使命の鎖から解放された銀河は、多分過去を振り返る事は余り好きではない。
 沈黙が落ちる。彼と2人だけで話すのは随分と久しぶりだ。世界大会の前に、少しばかり特訓に付き合って以来かも知れない。
 どうにかして銀河を倒そうと、幼稚に喚いていた頃の。

「正宗、手、出して」
「何だよ?」
 訝りながら両手を開いた正宗の手に、手を重ねた。

 ふわり、

「あげるよ」
「・・・雑草じゃねえかよ」
 渡したのは、丁寧に束ねた蒲公英の束。
 人の手に育てられない、弱々しくもしたたかな光の花。
「それは、僕の花のつもりだったんだけど」
 花束は、1年前に分不相応にもこの地で戦った僕自身に捧げるつもりだった。
 半端な実力で、それでも努力して努力して銀河に竜牙に喰らい付き最後の戦いへ身を投じる事を許された僕に。
「でも、君にあげる」

 僕は、僕なんて普通の人間だと思っていた。
 卑屈になる訳ではないけれど、銀河やキョウヤや竜牙を間近に見て、彼等が『違う』というのは痛い程伝わってたから。
 そして、唐突に現れ僕やベンケイを押し退けて世界大会へ旅立ち、銀河の隣で戦い抜いた正宗も、『そちら側』なのだと感じていた。
 けれど彼等が世界一の称号を冠した後、『伝説』が明らかになって、遊が、翼が、世界の強豪達がその渦中に入る事を許されなかった時、それは正宗も、例外ではなかった。

 僕も彼等と同じように光を欲したけれど星の欠片は僕の元には降って来なくて、それでも銀河の力になりたくて、僕は竜牙の背中を追った。
 選ばれなくても出来る事があると信じて頑張った。それしか出来る事は無いと思ったから。その気持ちだけ誰にも負けないと思ったから。
 そんな自分を、確かに誇らしく思っていたから。

 けれど最後の最後、輝きは僕の射手に宿り、僕自身も運命の中に立っていた事を知る。
 僕が泣いて這いずって躊躇って決意して選んだ道は、厳しくても敷かれたレールの上だった。
 それを悔しいとは思わない。実は銀河達と同じ高さに居たという事実は、命と引き換えたって構わないくらいの光栄だった。
「ねえ、正宗」
 立ち上がって、正宗を見下ろす。
 僕こそが、彼と違う選ばれたものだった。銀河達と同じ視点を許された高次の存在だった。

 選んだ道は導きだった。努力は全て必然の過程だった。何一つ、無駄ではなかった。
 僕はそんな自分を誇らしく思う。
 かつて僕は、無意味でも無力でも、諦めの中で足掻く事を尊いと思っていた。それこそが、僕の選んだ僕の価値だと。
 結果として、それは全て思い込みで、『想い』に大した価値等無かった。

 けれども確かに感じていたあの煌めきを。
 選ばれなかった事実の中で、手に入らない現実の中で、必死に足掻いた無意味な努力を。小さな最大限の光を。

「君は、凄いブレーダーだよ」

 ねえ、『かつての僕』よ。僕だけは、その価値を心から称えよう。


 2期には想像も付かなかった『選ばれていた』ケンタと『選ばれていなかった』まさむ。
 タンポポの花言葉は『神のお告げ』『思わせぶり』『愛の信託』『別離』等。



雪の下の故郷の夜 冷たい風と土の中で
青い空を夢に見ながら 野原に咲いた花だから
どんな花よりたんぽぽの 花をあなたにおくりましょう

by たんぽぽ (詞:カドクラサトシ)

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