コロコロ系

□銀河年代記
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「お前は、古馬村の長になるんだ」
 斜め下から北斗の声がする。
「お前はこの村の誰よりも偉くなる。その代わりに、今見えているこの全てを守らなくてはならない」
 俺が許されている行動範囲の端っこ。村外れの高台からは古馬村の全てが見渡せる。
「いつか流星が居なくなったら、それはお前の役目だ」
 崖と森に囲まれた、狭くて重い、俺の世界。

 それから少し目線が高くなって、氷魔が俺に従う事の違和感が薄れ、天馬が確かな相棒になった頃、一度父さんが死んで見せ、それでも立ち上がったことでもって俺は子供ではなくなった。
 そして竜牙と強さを追って日本中を放浪し、父さんと再会して、竜牙と対峙し、遂に打ち勝って。
 そう。結果として父さんは生きていた。けれども、父さんを失った世界で生きる道を、自分で世界を守る運命を、俺は確かに既に選んだのだ。

 暫しの後、天馬と再会して、一角獣と出逢い。
 遊や翼と、そして正宗と世界に挑んだあの時間の、なんて幸福だったことか。
 自由に、必死に、ただ世界の強豪達と、自分の欲求だけを背負って力をぶつけ合ったあの時が、間違いなく一番幸福だった。
 日本の面子など俺には関係なく、世界は広く多様で強く、キョウヤが拮抗した力を発揮し、竜牙が世界の脅威にならない形で圧倒的な力を示して、正宗と意味の無い喧嘩を繰り返しながら共闘していたあの頃。
 欲を言えばケンタやキョウヤと一緒に戦えなかった事は残念だったし、最終的にジグラットのやった事で大会が台無しになったのは悔しい。しかし彼は卑劣で恐ろしく許し難かったけれど、『偶然』彼が俺の前に現れ障害を打ち破った一連すら、俺にとってはぬるい幸福の一幕だった。
 俺が、ただのブレーダーであった、唯一の時間。

 星が弾けて降り注いだあの時。
 天命だと信じていた竜との対峙すら、ひとつの過程であったと思い知らされた。
 生まれるずっと前から決まっていた、世界の絶望との激闘。
 星の運命を繋ぎ、伝説を再現し、その先を創造する事が俺の生まれた意味だった。
 遊も翼も正宗もその輪の外側で。竜牙は戦いに消え、ケンタは最後の最後そこへ飛び込んで。
 そうして、世界は守られた。

 この途方も無い宇宙の全てが、俺の守った世界。

 目を閉じて、顔を覆った。
 瞼の裏に、世界が映る。
 平和で、愛しい、『俺』という人生を再生する為の世界。

 ああ、

 この、広く、美しい箱庭を救う為の力の、なんて馬鹿馬鹿しい。


 私の中の銀河像整理。
 切り開いたようでレールを辿っただけだった、『運命』を人の形にしたような。
 タイトルはレイ・ブラッドベリの『火星年代記』から。

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