コロコロ系

□以て瞑すべし
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 両親の顔は知らない。
 物心付いた時には遠い親戚だという男の家で朝から晩まで雑用をさせられていた。
 転機は10歳の時。隣人が日本への密入国を企てていると知り、自分も連れていかなければ軍へ知らせると脅迫した。
 異国で1人、金も戸籍も無い私は小学校へ通う事も出来ず、思い出したくも無いような色々な事をして当面の生活を凌いでいた所を、キョウヤ様に拾って頂いた。
 相棒学園の中等部に入学させて貰い、この先の推薦や奨学金を見据え、内申点も考えて生徒会について担任に問うと、丁度副会長が辞退したばかりだというのでその場で申請を済ませた。
 対立候補も現れなかったので、私はそのまま1年生ながら副会長の座を手に入れた。

「失礼いたします。本日、生徒会副会長を就任しました、ソフィア・サハロフです」
「・・・ふぅん、お前が新しい副会長ですし?」

 生徒会室には、王子様が座っていた。

「ソフィア、これも頼むですし」
 対立候補が居なかった理由は直ぐに分かった。
 父親がバディカード管理庁に努めており、学園の運営にも一枚噛んでいるという彼は酷く横暴で、人を思いやるという事をしなかった。
 地位があり、権力があり、母親は早くに亡くしたらしいが父親から溺愛されていて、学校の成績という意味では頭脳も優秀、バディファイトも決して弱くはなく、ついでに客観的に綺麗な顔をしていた。
 別段努力や苦労もなく、『祠堂孫六』というのは、酷く恵まれた子供であった。

『また轟鬼ゲンマに言い掛かりを付けられたですし!』
『昨日は流星群が見られる筈だったのに曇ってるなんて有り得ないですし!』
『パパダディが誕生日にくれたキャプテンアンサーのフィギュアに傷が付いてたですし!』

 にも関わらず、彼の口から飛び出すのはその殆どが不平不満だった。
 私が今まで死に物狂いで手に入れた全てと、これから死に物狂いで手に入れようとしている全てを持っている癖に。

 この、男は。

「ソフィア?」
 変な顔してどうしたですし。
 呑気な声を上げる彼に背を向けて、生徒会室を後にする。
( 生徒会長。学年ランキング2位。父親がバディカード管理庁勤務。横暴だが煽てに弱い性格 )
 説得の材料は充分だ。携帯に恩人の番号を呼び出し、覚悟を決めた。





「おはようございます」
「あー! ソフィアお前、一週間も勝手に休んで何やってたですし!!」
 がつがつとブーツを鳴らした祠堂が机を指した。
 私が居ない間何もしていなかったらしく、積み上がった仕事を並べ立てて喚き散らす。
「聞いてるですし!?」
「祠堂」
「・・・な、なんですし」
 低く呼ぶと、怯んだように語尾を緩めた。
「臥炎キョウヤを知っているか」
「え・・・。臥炎・・・って、臥炎財閥の総帥ですし? まぁ、パーティーとかで挨拶くらいは・・・」
「話が早くて助かる」
「ソフィア・・・?」
 さあ、運命が動き出す。
 生徒会室に居るだけでは、決して訪れない未来。

 ねえだって、私と違って何もかもを持っている癖に不幸ぶるなんて許せない。
 ねえ祠堂。貴方、一体何が足りないというの?

「祠堂、世界革命に興味は無い?」

 世界の1つも手に入れたら、貴方は満足するのかしら。


 ソフィアちゃん様が孫六ちゃんに辛辣にしながらもくっついてる理由って何だろうなーと真面目に考えてみました。
 キョウヤ様に言われて生徒会長やってるなら時系列合わないですが、指示は「演じ続けろ」だから元々生徒会長だったのかもー。
 「以て瞑すべし」は「死んでも本望であろう」転じて「これで満足するべきだ」という意味。

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