遊戯王
□証
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「これはね、証」
「あかし・・・?」
遊戯の言う意味が分からず、オウム返しに繰り返した。
遊戯がずっと昔に購入し、もう一人の遊戯が目覚めたその日、首に巻いたそれ。
もう一人の遊戯が、現世に戻って初めてのゲームの夜、深い考えもなく(というか目覚めて暫くは当面の問題しか頭になく思考、という程の行為に至ることがなかった。自分自身のこととて遊戯の別人格ではないか、とぼんやり思うくらいだったので)手に取った机の上に放置されていた首輪。
何故そこにそれがあったのか、それはもう一人の遊戯の預かり知るところではないし、何故それを手に取ったのかは自分のことなのに少しも分からない。
それが何とはなしに不安だったのかも知れない。それとも自分が知る前の相棒のことだから気になっただけかも知れない。
とにかく訊いた。深い意図はなく。ただ純粋に「何故それがそこにあったのか」という疑問。
するとどうしたの、急に、とくすぐったそうに微笑んで遊戯は言ったのだ。これは証だと。
意味が分からず言葉を繰り返したもう一人の遊戯に(勿論単語の意味が分からなかった訳ではないが)、遊戯は優しく言い聞かせるように声を紡いだ。柔らかく、けれどはっきりと、もう一人の遊戯へ真正面から宣言するように。
「そう。主従のね」
と。
その言葉はもう一人の遊戯にとって些か衝撃であり、まだ意味を測りかねてもいる。故に一瞬静寂が下りたが、それでも慌てて否定の言葉を紡ごうと口を開く。
「そんな、相棒は・・・」
けれど、それを待っていたように言いかけた声に重ねて遊戯が高く謳った。
「どんなに虐げられても、どんな命令に従う羽目になっても、僕の主は僕であるという証」
買ったのはね、君が現れる前の日。そういう考え方はずっとあったんだけど、急に目に見える形が欲しくなったんだ。
不思議でしょう? 僕の生活はそれこそ小学校に上がる前から殆ど変わってないのに(少しずつ酷くなっていったけれど)あの日急に何の切っ掛けもなく僕は迷わずこれを買ったんだ。
これは僕の首輪だけど、もしかしたら君にあげる為に買ったのかも知れないね。
ふふ、と遊戯は笑う。
すう、と一拍置いて、
「これを付けているものは、皆僕のもの」
うっとりと続ける遊戯に、空間が変質するような気がした。空気にさえ酔うようで酷い吐き気がする。
もう一人の遊戯は無意識に自身の首へ指を這わせていた。
もうずっと昔(のように感じる)、自分の手で巻いた、それ。
さして高価でもない黒い革の首輪。その奥の首が、喉が、じくじくと焼ける。
「おれ、も・・・?」
うわごとのように呟いたもう一人の遊戯に、遊戯は穏やかに微笑んだ。
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初表闇。というか初DM。まぁありがちですが首輪ネタ。
王様の主も、表ちゃんの主も表ちゃん。