遊戯王
□再びそれが訪れたなら
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あの日と同じように月が丸い。
今夜は月に一度のコンベアのメンテナンスの日。
俺がそうした時と同じ、正午からたった3分の、脱出の機会。
毎月訪れる機会に、けれども俺以外誰一人としてそこを潜ってくることはなかった。
確かに性能の良いD-ホイールでも3分でメンテナンスハッチまで辿り着くのは至難。危険だって伴う。けれど決して不可能ではない。
なのに何時まで経ってもどうにもならないのは、一重に性能の良いD-ホイールが、否、D-ホイールそのものがサテライトでは手に入らないからだ。
純白のD-ホイールに跨りエンジンをかける。目的地に向かい躊躇いなくハンドルを切った。
俺が脱出に用いたあのD-ホイールは、サテライトに存在する筈のなかったあれは、信じられないくらいの偶然が重なりあって、有り得ない程の強運があったから完成した。
D-ホイールを自作出来る者などそうはいないし、出来たとしてもサテライトにいる限り、二度とあれ程のものは作れまい。
俺の乗ったあれの誕生は正に奇跡であり、すなわち運命であった。
あいつがあれを作ったのも、そんなこと考えていなかったくせに戯れに脱出の方法をシュミレートしたことも、俺が偶然にそれを見てしまったことも。
全ては俺があのゴミ溜めを脱出し、真にキングとなるが為。
徐々にスピードを落とす。ややあって静止したD-ホイールを下りると、そこはサテライトとシティーを繋ぐ唯一の場所。
時計を見やる。そろそろ時間だった。
残りは30秒・・・20秒・・・10秒・・・。
3・・・2・・・・・・1、
タイムリミット。
ある筈がない、と分かっているのに月に一度ここへ足を運んでしまう。
俺は何を待っているんだ。
奇跡は二度と起こり得ない。明白なこと。
変わらない静寂に微かに苛立ちを覚え、誤魔化すように背中を向けた。
それでも、もしそれ程の偶然が再び重なったなら、
遠く、エンジン音が響いた。向き直って目を凝らすと、
眼下に現れる、真紅のD-ホイール。
知らず口の端がつり上がった。
起こる筈のないそれが起こったなら、
「・・・ジャック・・・」
懐かしい声。
変わらない瞳。
再びまみえる時が訪れたなら、
「久しぶりだなぁ、遊星」
あぁ、それもまた、運命。
+
遊星「キモいこと言うな・・・」(えー)
という訳で3話ラストネタ。メンテナンスって確か月1でしたよね?(調べろ)
アトラスファンがここ見てませんように。