遊戯王

□書中の言葉遊戯
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「ちょっと待ってて」

 彼がここにいるのは珍しいなと、意識の端で追っていると(レポートに必要な資料を探しに来たらしい)、
 一緒に訪れて本を選んでやり、彼に付いて図書室を後にしようとした万丈目君にそう言い残して十代君は教室を出て行った。

 暫くは気にしていたが、忘れてまた本に没頭し始めた頃に、万丈目君がまた扉へ向かうのに気付いて顔を上げた。
「あれ、待ってて、って言われたんじゃないの?」
 痺れを切らすには少し早くないだろうか。まぁ彼はせっかちなところがあるから分からないでもないが。
 実際十代君が出て行ってからずっと時計を見ていたし。けれど苛立っている風ではなかったのに。

「あぁ、ちょっと待ってろと言われたので、もういいんです。あいつの『ちょっと』は10分までだと以前言ってたので」
 確かに、それは理屈かも知れないが。

「でも、十代君が戻ってきたときに君がいなかったら可哀相でしょ。何の用か知らないけど」
 言うと、万丈目君は少し困ったように微笑んだ。
「用なんかないですし、戻ってなんて来ませんよ。あいつは待ってろと言っただけですから」
 至極当然というように、万丈目君が言うものだから、本当にそうなのだろうなぁと思えてしまって。

「言葉遊びみたいなものです。2時間待って馬鹿を見たこともあるので」
「・・・無理に付き合うことないんじゃないかい?」
 どうにか、笑ってそう返すと、
「無理だったら無視します。でも、別にすることもないし、だったらあいつに付き合ってやってもいい」
 怒りの色一つ見せない(囚われの)彼は、それでも言っているうちに眉を寄せて、
 俯いてからすいません、と目を擦った。

「君は、」
 言いかけたけれど、何も続かなかった。
 万丈目君は、いや、十代君は・・・、

 何、だろう。

 席を立って、万丈目君の前で立ち止まる。
「師匠・・・?」
 ぎゅう、と、思い切りその細い体に手を回した。
「ちょ、し、師匠っ!?」
「君は・・・」
 やはり、何も続かなくて。ただ、

 あぁ、愛おしい。

「・・・あは、ごめんね、躓いちゃった」
 へらりと笑って、片手に持った本を彼の頭上の棚へ。
「偶には文句言ってあげなよ」
「・・・」
「じゃなきゃ、十代君も可哀想だよ?」

 万丈目君は暫く黙ったままこちらを見上げて、それから僕の腕をすり抜けて図書室の外へ。
 目で追うと出口で一度振り返り、

「すいません、ありがとうございます」
 微笑んで、小さく一礼して、それから小走りで駆けて行った。
「・・・愛しい、ね」
 二人共。

 先ほど納めた本を抜き出して、元あった棚の方へ歩み寄った。


 吹万っていうか。じょめも可哀想だけど、皆が特別扱いしたら兄貴も可哀想だよーって。
 愛おしい、には「大事、可愛い」以外に「可哀想、気の毒」、「困ったこと、辛い」という意味もあります。
 後ろ二つは「厭う」もしくは「いたわしい」からの派生と言われています。
 吹雪さんは全部の意味を込めて言いました。無条件に後輩達とカイザーとめかぶが大好きです彼は。

222 牢の中でさえも笑むのか

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