遊戯王

□実る想い
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 果物の中だと苺が好きだと言ったらしい。
 彼女の情報が回るのは早い。

「万丈目君」
 ふわりと髪をなびかせて、明日香は立ち止まった。
 準も3歩離れた場所で足を止める。
 どうしたんだい? 緊張しつつ意識して優しく答える準に無反応の明日香は、「十代見なかった?」と、特にあてにしていなさそうな声で問うた。
「・・・あいつに何か用か?」
 十代は今翔達と寮にいると知っていたが、それより先に質問で返すと、
「ちょっとね、」
 と少し困った顔をした。
 前うっかり新聞部のインタビューに答えちゃったから。言って明日香は抱えた箱の中一杯の苺を見せた。
 好きなのは本当だけど、こんなにいらないからお裾分け。こんな時期なのに皆どこから手に入れてくるのかしら。
 瞬間、タイミング良く落ち葉が舞った。

 明日香は人気がある。
 男子からも、女子からも、
 容姿端麗、デュエルの腕も上々、成績優秀でついでに運動神経もかなりのもの。
 性格については意見が分かれるところだが。

 勿論準はその強さや、融通が利かないくらいの真面目さや、少し短気なところも、短所だなどと思ったことすらない。
 男子にも負けない勝気さだって魅力だと思う。
 しかし今眉を寄せる明日香を前に、こうであれば女の子だなぁと準は思った。
 瞬間、酷い焦りを感じた。
「良かったら、万丈目君も・・・」

 ぐしゃ、

「・・・あ」
 綺麗に重なる呟き。
 準は叩き落とした、明日香は叩き落とされたそれを見下ろし、

「あっ、・・・あ、その・・・すまない! 天上院君!!」
 一瞬早く我に返った準が頭を下げた。
「う、うぅん、いいのよ? 別に私が買った訳じゃないし・・・」
 明日香は驚いたように言って、箱を拾い上げると笑って見せた。
 向けられた笑顔にも、準の焦りと混乱は治まらない。

 どんなに否定して見せても好きなのだと言い渡された気がした。

 彼女と十代が、なんてあってはならないこと。
 許してはならないこと。
 まだ、好きだった。

 明日香だけにはどうしても幸せになって貰いたくて、守りたくて、

 それは小さな祈りだった。
 必死の想いだった。
 小学生が見つけた、巣から落ちてしまった小鳥のヒナに、何もしてやれなくてそれでも死なないでとただひたすらに願うような。
 あぁこんなの明日香に失礼だと分かっているけれど、
 それくらいの透明で無力な気持ちだった。
 それが俺を犠牲にすることだとしても、叶えたいと、

 彼女の為とか、そういうことではなくて、
 だって、どれが幸せかは本人が決めること。
 幸せさえ捨ててしまえる想いがあることだって、俺はよく知っている筈だし。

 ただ、俺が幸せな君を見ていたいだけで、
 俺はただ、君が、

「苺はやっぱり春の方が美味しいと思うのよね」
 確かに落ち葉と苺という取り合わせは不自然で、
 自然体を愛する彼女らしい言葉。

「・・・じゃあ、お詫びに春になったら僕が最高級の苺を取り寄せてあげよう」
「ふふ、ありがとう。期待してるわ」
 精一杯明るく言うと、明日香はもう一度笑顔を見せて、
 折角来たのにな、と小さく呟いてから来た道を戻って行った。

 暫くその後ろ姿を眺めていた準も踵を返すと、無言でレッド寮への道を歩いて行った。


 お友達にリク頂いて初万明日。根底に十万が転がってるのは仕様です。
 好きかどうかは置いといて『無視出来ない』カプだとは思います。だってじょめは絶対明日香さんのこと好きだもの・・・。
 どっちに対しても嫉妬とかじゃなくて、十代から明日香さんを守ろうと必死。

僕はただ、君が好きなだけ。

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