遊戯王

□遠い声
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 プロリーグの最中。控室に一人。突然机が微かに震動した。
「っ!?」
 意識していなかったので酷く驚く。
 置きっぱなしにしていた携帯電話だ。
 止まらない震えに電話だと分かって慌てて駆け寄った。

「・・・こんな時間に?」
 今日の仕事はもう終わった筈。
 明日の予定ももう聞いた。
 携帯を開くと知らない番号。
 間違い電話か、嫌がらせか。

「もしもし? 誰・・・」
『あ、エド。俺だよ。十代』
 予想外の言葉。知らず口元が綻んだ。

「あぁ、十代。どうしたんだ、急に。お前携帯なんて持ったのか」
『まぁな。で、そしたらお前の声が聞きたくなった』
「何、言ってるんだ」
 電話を持ったままソファへ腰かける。
 どうしよう。嬉しいんだ。こんな、どうしようもなく。
『電話番号調べるの大変だったぜー。本部に問い合わせて、身分証明して・・・』
「そんなことしなくてもアカデミアで聞けば良かったのに」
 連絡先は校長に申告してある。十代なら直ぐに教えて貰えるだろう。
『あぁ、あいつならそういう方法もあるのか』
「・・・?」

 あいつ、なら?

「十、代?」
 今更のように違和感。
 少しだけ手が震えた。
『はははっ!』
「!?」
『いい加減気づけよ。お前の気持ちはそんなものか? ・・・それとも、気付けないくらい嬉しかったか?』
 違う口調。違う雰囲気。違う・・・、

 声?

「だっ、誰だ・・・。誰だっ!? お前は!!」
 怒りより昆乱が上回る。知っている? まさか。何を。どこまで?
『俺のこと、忘れちまった? お前とはデュエルは出来なかったもんなぁ』
「ヨ、ハン・・・?」
 今思うと迂闊だった。違う人間だったら失礼極まりない。
『あ、覚えててくれたんだ。嬉しいなぁ。それとも、十代の親友だからか?』
 一応言うと、十代が携帯持ったらしいのは本当。まぁ俺も番号とかは知らねぇけど。
 否応なく耳に入る声。内容を理解するのに時間がかかる。
 ヨハン?
 どうして、ヨハンが僕に?
 だって、僕は彼の事は殆ど・・・、

 ヨハン・アンデルセン。アークティック校から来ていた交換留学生。精霊の見えるデュエリスト。そう・・・、十代の、親友。

「どうして、こんな」
 口が渇く。声が途切れた。
『1つは確認だよ。はっきりした』
「何の、」
 話だ。
『お前の十代への気持ち。ついでに両想いとかじゃない確証と、』
 もう1つ。警告しとこうと思ってさ。

『欠けがある奴なんか十代には相応しくない』

「欠け・・・?」
『耳、悪いんだろ? じゃなきゃ俺と十代の声なんか区別つかない訳ないんだから』
「!?」
 息を飲んだ。
 やはり。でも、どうして。誰にも言っていない。それこそ、十代にだって、
『見てれば分かるよ。あいつが目に入る度、表情が変わるお前が、声には明らかに反応が鈍い。俺にはすげぇ分かりやすかったぜ?』 
 ようやく分かった。
 この行動の意味、それとヨハンという人間も少し。
 分かりやすかった? アカデミアの誰にも、プロデュエリトの誰にも分からなかったこれが?
 ・・・分かったのは、ヨハンだからだ。
 僕と同じ目で十代を見ていたからだ。

『自覚しろよ。お前は不完全だ』

 揺さ振られる程の衝撃。
 撃ち抜かれるようでも、澱んでわだかまるようでもあった。
 くくっとヨハンは笑う。揶揄と憎しみを肌に感じた。

『可哀想なエド。大好きな十代の声も、大嫌いな俺の声も分からない』
 ヨハンは嗤う。
 声が出ない。力が入らない。
 どくん、と、内側からばかり響く。
 耳そのものが脈打っているようだった。
 震える手の平から携帯電話が滑り落ちる。

 音は酷く遠かった。


 聴覚障害エド。何言ってるかは分かっても誰が言ってるか分からない、という。11月10日〜12月10日は障害者週間らしいですよ。
 白色青目の猫は聴覚障害持ちが多いらしいよエドもそうだったりしてな萌え! という妄想から。
 一応言うと聴覚障害にこんな都合のいい症状ありませんので。御都合主義。
 前はエドがじょめ苛めたりしてたのに、印象改善された為苛められっ子に回りました(可哀想過ぎる)。 

ゆ 揺さぶられる心音 (夏の日の夕暮れ)

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