遊戯王

□タネも仕掛けも
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「おーい、万丈目!」
「・・・遊城十代」
 一人で廊下を歩いていた所を後ろから呼ばれて、振り向く前に分かった相手の名前を憎々しげに口にした。
 目に入る赤が苛立たしい。

 俺が。
 この俺が、オシリスレッドの、それも同じ1年に敗北を記すなんて。
 負けることに慣れていない分その事実は胸を抉った。
 だから、準はデュエルの内容だけを重く捉えて、人間の方は努めて意識の外へ追いやろうとした。
 次こそはあのヒーローデッキを破り、十代もろとも記憶から追い出してしまおうと。

 なのに。
 なのにこいつは当たり前のように俺を呼び止める。
 そしてあのデュエルを話題にするでもなく、仲が良いと思いこんでいるかのように他愛のない話をするのだ。
 カードだけを見るなんて許さないというように。
 遊城十代という人間の、顔を、声を、表情を、俺に認識させようというように。

 その笑顔に、何か根本が間違っているような違和感を覚える。

 だって俺とこいつは当然仲良くないし、知り合いという程の間柄ですらない。
 俺はレッドと口を聞きたくなかったし、わざわざそんな俺を捕まえずとも、こいつには話し相手は幾らでもいるように見えるのに。

「はい、このカード覚えて」
「は?」
 十代は自身のデッキの上からカードをめくると俺の方へ向けた。
 手にあるのは『バーストレディ』、先のデュエルでも目にしたカードだ。
「何を・・・」
「覚えたか? じゃあ、このカードを・・・」
 すっと一度手を伏せて、そのカードをデッキの真ん中辺りへ差し込む。

 それから、立てた人差し指と中指で、デッキの上を二度軽く叩いた。
「これで、さっきのカードは上まで戻って来ます」
 わざとらしい丁寧語で、
「はいっ」
 一番上のカードをめくる。

 それはバーストレディのカードだった。

「勿論このカードは俺のデッキには一枚しか入ってないぜ」
 得意げに指に挟んだカードを見せつけた。
「・・・」
 俺は、そのまま動けなくなって、

「へへっ、ビックリしたろ?」
 翔にも見せてやろう、と十代は笑った。
「・・・・・・くだらないな。神聖なカードをトランプ扱いするな」
 一蹴してやった。
「何だよ、固まってたくせに」
「ふざけるな。さっきのは最初に分からないように2枚めくって・・・」
「げ、本当に分かってんのかよ」
 つまんねぇ、と十代はデッキをホルダーへ戻す。
 意外と手が大きいな、と思って、手品に向いてはいるんだろうなぁなんて。
「次はもっと難しいの見せてやるから期待してろよ!」

 だからカードをトランプ扱いするなと、
 言おうとしたが十代は既に背を向けていて。

「・・・くだらない」

 くだらない。くだらない。
 手品のタネも、十代の行動も。
 自分の、思考も。

 さっきの手品のタネはすぐに分かった。
 十代は下手ではなかったが、有り触れたトリックだったので簡単に予想がついた。
 けれど、

 酷く動揺した。

 あの、簡単な手品には、
 実はタネも仕掛けもなくて、

 ただ、『十代の言ったこと』が本当になっただけなんじゃないかって、

 あまりにも、自然に思えて。


 手品のタネは「最初に実は2枚捲っていて、一度手を伏せた時にカードを上に戻し、上の一枚だけを真ん中に差し込む」というものです。
 十代にデュエル以外で初めて脅威を覚えたじょめ。
 1期十万見たいとの要望があったので書いてみました。5話〜11話のどこか。

42 笑えないサーカス (Short message)

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