遊戯王
□タネも仕掛けも
1ページ/1ページ
「おーい、万丈目!」
「・・・遊城十代」
一人で廊下を歩いていた所を後ろから呼ばれて、振り向く前に分かった相手の名前を憎々しげに口にした。
目に入る赤が苛立たしい。
俺が。
この俺が、オシリスレッドの、それも同じ1年に敗北を記すなんて。
負けることに慣れていない分その事実は胸を抉った。
だから、準はデュエルの内容だけを重く捉えて、人間の方は努めて意識の外へ追いやろうとした。
次こそはあのヒーローデッキを破り、十代もろとも記憶から追い出してしまおうと。
なのに。
なのにこいつは当たり前のように俺を呼び止める。
そしてあのデュエルを話題にするでもなく、仲が良いと思いこんでいるかのように他愛のない話をするのだ。
カードだけを見るなんて許さないというように。
遊城十代という人間の、顔を、声を、表情を、俺に認識させようというように。
その笑顔に、何か根本が間違っているような違和感を覚える。
だって俺とこいつは当然仲良くないし、知り合いという程の間柄ですらない。
俺はレッドと口を聞きたくなかったし、わざわざそんな俺を捕まえずとも、こいつには話し相手は幾らでもいるように見えるのに。
「はい、このカード覚えて」
「は?」
十代は自身のデッキの上からカードをめくると俺の方へ向けた。
手にあるのは『バーストレディ』、先のデュエルでも目にしたカードだ。
「何を・・・」
「覚えたか? じゃあ、このカードを・・・」
すっと一度手を伏せて、そのカードをデッキの真ん中辺りへ差し込む。
それから、立てた人差し指と中指で、デッキの上を二度軽く叩いた。
「これで、さっきのカードは上まで戻って来ます」
わざとらしい丁寧語で、
「はいっ」
一番上のカードをめくる。
それはバーストレディのカードだった。
「勿論このカードは俺のデッキには一枚しか入ってないぜ」
得意げに指に挟んだカードを見せつけた。
「・・・」
俺は、そのまま動けなくなって、
「へへっ、ビックリしたろ?」
翔にも見せてやろう、と十代は笑った。
「・・・・・・くだらないな。神聖なカードをトランプ扱いするな」
一蹴してやった。
「何だよ、固まってたくせに」
「ふざけるな。さっきのは最初に分からないように2枚めくって・・・」
「げ、本当に分かってんのかよ」
つまんねぇ、と十代はデッキをホルダーへ戻す。
意外と手が大きいな、と思って、手品に向いてはいるんだろうなぁなんて。
「次はもっと難しいの見せてやるから期待してろよ!」
だからカードをトランプ扱いするなと、
言おうとしたが十代は既に背を向けていて。
「・・・くだらない」
くだらない。くだらない。
手品のタネも、十代の行動も。
自分の、思考も。
さっきの手品のタネはすぐに分かった。
十代は下手ではなかったが、有り触れたトリックだったので簡単に予想がついた。
けれど、
酷く動揺した。
あの、簡単な手品には、
実はタネも仕掛けもなくて、
ただ、『十代の言ったこと』が本当になっただけなんじゃないかって、
あまりにも、自然に思えて。
+
手品のタネは「最初に実は2枚捲っていて、一度手を伏せた時にカードを上に戻し、上の一枚だけを真ん中に差し込む」というものです。
十代にデュエル以外で初めて脅威を覚えたじょめ。
1期十万見たいとの要望があったので書いてみました。5話〜11話のどこか。
42 笑えないサーカス (Short message)