遊戯王

□まどろみの貴女
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「あぁああー! アニキってばまた卵パンっスか!?」
「へへー、羨ましいだろ?」
「そりゃ、羨ましいっスよ! 本当引きがいいんだから・・・」
 言いながら翔は自分のドローパンの袋を破り、僕もまたメザシっスか・・・、と肩を落とす。
 それを見て笑った十代は、ふいにこちらへ視線を向けた。

「万丈目、お前は?」

 はっと我に返って手元の袋へ意識を戻す。
 まだ開封していなかったそれを十代の手がひょいと取り上げた。
「あっ! 貴様こら! 返せっ!!」
 手を伸ばしたが微かに届かなくて、結局十代の手で袋は破られた。

 というかそもそも何故俺がこいつらと昼食を共にしなければならないのだろう。

「あ、俺こんなの初めて見た」
「わー、本当っスね。新しく入ったのかな」
 わいわいと袋の中を覗く二人から隙を突いて取り返した。
 入っていたのは、

 淡いピンク色の蒸しパン。
 自分も見たことがないから確かに新しく入ったのかも知れない。
 屈辱的な目に合う回数が目に見えて増えている気がするのは気のせいだろうか。

「・・・いいなぁ、それ」
「は?」
 責任転嫁かも知れないが、その元凶のような気がする男の呑気な声。
「それ、交換してくんない?」
「あ、あぁ・・・俺は構わんが・・・」
 何時以来だろう。卵パンなんて。
 無意識に受け取りながら、視線は十代に向いたまま。
 翔も少し怪訝な目を向けていた。

「アニキ、こんなの好きだったっけ?」
 いや、十代は食べ物なら何でも好きだけど、
「んー、どうしてだろ? 見たら欲しくなった」
 言いながら一口。
 その瞳が一瞬、

 緑と橙に深みを増して、

(あぁ、そういえば)
 異世界の闇の中、たゆたい、混濁し、微かに混じった意識の底で垣間見た彼(彼女?)は、こういうものが好きそうだった気がする。

(・・・どこまで分かってるのやら)
 変わらず楽しそうに話す十代を見ながら、

 自分の命を確実に危機に晒した彼女(多分)に、今度ぬいぐるみでもくれてやろうか、と考える自分が滑稽で、
 笑みの形を誤魔化すように、卵パンに齧りついた。
 そういえば彼から形あるものを受け取ったのは初めてだ、と、嬉しくも哀しくもない事実に気が付いた。


 十代はじょめにいきなりぬいぐるみ渡されたらどんな反応するだろう。
 白いふわふわの熊とかあげたらいいと思う。
 じょめは誰にでもどこまでも優しかったらいいなぁ。
 というかじょめはユベたんのどこ見て「こういうのが好きそう」だと思ったんだろう・・・。

あなたはもう一人の、

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