遊戯王

□その隣の誰かを
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「何だ? デュエルアカデミアの生徒がこんなに少ない筈ないだろう」
 何故か空白の欄が多くを占める名簿を手に眉を寄せた。
「いや、」
「え?」
 やや神妙な声を出した吹雪を振り返る。
「さっきから気になっていたんだが、エントランスっていつもこんなに人が少なかったかな・・・」
 閑散とした、という表現すら相応しくない程に広過ぎるそこを、
「そういえば、皆何所へ行っちゃったんだろう」
「おかしいわ。今日デュエルした子達の顔が思い出せない・・・」
「そういえば僕も・・・」
 それが切っ掛けだったのか、弾けるように、漏れ出すように、皆を違和感が取り巻いていく。

「おいおい、皆何を寝ぼけているんだ。十代の馬鹿じゃあるまいし・・・って、あいつはどこ行ったんだ?」

 もうはっきりと色濃い「異常」の気配。
 これまで何度か飲まれたそれと同質の波長。
 俺が認めたら全て手遅れになってしまうような気がした。

「十代なら、剣山君と一緒だと思うけど・・・」
 そういえば、久しくあの馬鹿を見ていない。
 補習に泣きごとを言っていたくせに卒業デュエルの説明にも顔を出さなかったし、
 三年生は忙しいだろうからと何かと剣山が出向いていたし。

 何か、十代がいないことこそが、確かな『異常』の証に思えた。

 ただ、ここ最近そうであるように姿を見せないだけだろうか。
 そうでなかったら・・・、

( そうで、なかったら? )

 また、たった一人、どこかへ行ってしまったのだろうか。
 どこかで、戦っているのだろうか。

( ・・・また、 )

 あいつはまた一人で戦うのか?
 今度こそ、自分にすら負けないで、立ち向かって、
 以前より、ずっと、たくさんの傷に耐えられるその躰で。
 耐えられるだけで、決して傷つかない訳ではないその心で。

( その強ささえない俺は )

 何も出来ないけれど。何を言うことも、何を祈ることも。

( けれど、頼むから )

 一人で行くな。

 たった一人立ち向かうことがどうかないように。
 たとえ彼の力がその為のものであっても。

 ただ、一人でなければいい。
 『誰か』が隣に立っていてやればいい。
 それは、俺でなくてもいいけど。

( もし、俺を選んでくれたら、 )

 俺を隣に置いていてくれたら、俺は、
 今度こそ一切躊躇うことなく、
 お前の盾にも剣にもなるのに。


 171話。いよいよ本編突入の4期。
 『大いなる使命を果たす』という力を持ってしまった十代。絶対の命令を与えられたも同然だと思うんです。
 斎王様しかり、美寿知さんしかり、欲しくもない力を持つっていうのは欲しい力がないこと以上に不幸なことじゃないかな。
 でも4期の兄貴には突き詰めたところユベたんがいるから一人にはならないと思う。

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