短編集

□素直になれない
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僕の幼なじみは少し変わっている。

小さい頃はいつも僕に追いつこうと一生懸命後ろをついてくる姿が可愛かった。

幼少期からずっと一緒にいるため始めは兄妹のように感じていたが歳を重ねるごとにだんだんと恋心に変わっていった。

「零の好きなタイプの子ってどんな子?」

「は?」

高校生になったある日、学級日誌を書いていたら前に座る彼女がいきなりこちらを振り向き、そんなことを訊かれる。未だに幼なじみの枠から抜けられず、景光を入れて三人で遊ぶようになってからはますます兄妹感が増してしまい、どう意識させようか悩んでいたところだった。

彼女をジッと見つめる。黙っているのを不思議に思ったのか「好きな子とかいないの?」と小首を傾げながら訊いてくる。

小さく「いる」と頷けば彼女はすごく驚いた声を上げる。

「えぇっ⁉初耳、どんな子?」

どんな子なの?と服を引っ張り訊いてくる夢乃。「服が伸びるから止めろ」と言いつつも心の中はドキドキしていた。

「ねー!ねー!教えて!」

またそんな自分も幼なじみという安定した位置から抜けられず、素直に「君だよ」なんて簡単には口に出せなかった。

鈍感な彼女をジト目で睨む。ん?と首を傾げる仕草すら可愛いと思ってしまう。

「髪は、綺麗な黒髪で…長くて…」

「うんうん」

「ズボラでいい加減な癖に制服はきちんと着てる」

「へぇー」

「変なところでマジメで…あと何かと僕と張り合って、一生懸命ついてこようとして」

「零、ストップ」

まだまだ言い足りなかったが、彼女に当て嵌まることを言い続けているとそれを遮るように夢乃が口を挟む。そしていきなり立ち上がった。

「ちょっと景光のところに行ってくる」

何故ここで景光。

まぁ、いいけど。忙しないやつ、なんて思いながらも零は学級日誌を終わらせるためまた視線を日誌へと落とす。そして気づく、あいつも今日日直じゃないか。




「景光、零の好きな子の特徴聞いてどう思う?」

「お前らまだそんなことやってるの?そんな面倒くさいことしてないでさっさと告白すればいいじゃないか」

「だって、絶対はないじゃない!黒髪ロングでしかもズボラでいい加減な奴が制服きちんと着てるなんて沢山いるし」

「なんで最後まで聞かなかったんだよ」

「ちょっとでも自分に当て嵌まらないものが出てきたら耐えられないと思って」

「めんどくさー」

「ひろ!面倒くさがらないで!一緒に考えて!」

「じゃあ、その正反対のことをして、それでゼロの意見が変わったら夢乃ってことでいいんじゃない?」

「なるほど!さすが景光!」

「でも具体的に何す…ってもういないし…」

ほんと忙しないやつ、と景光は呆れたように笑った。





翌朝、登校時間に零は景光と一緒にいつものように彼女を迎えに自宅へと訪れる。

インターホンを押してすぐ出てきた幼なじみに零はピキッと石化する。

玄関から出てきた彼女は髪を金髪に染め
、あんなにちゃんと着ていた制服も着崩しており、スカート丈は短く、ボタンだってきちんと止めていない。あっ、化粧までしてるじゃないか。耳にピアス穴まで出来てる!

そんな姿で自分の目の前に現れたらこんな状態にもなる。三度見した。

固まっている零とは正反対に隣では景光が大爆笑している。

「な、んで…そう、なった…?」

「もう一度訊きます!あなたの好きな子はどんな子?」

あぁ、そうだ。忘れてた。彼女はちょっとバ…いや、変わってるんだった。

あのあと景光とどんな会話をしてどうしてそうなったのかはわからない。だけど、彼女もまた自分と同じ気持ちなのだと今はっきりした。

「金髪で、制服着崩しててピアス穴まで出来てる子」

その返答に夢乃は満足そうに微笑んだ。



おわり
2020.5.31


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