短編集
□朝
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*事後です。直接的な表現はありませんが、苦手な方はバックしてください
カーテンから差し込む朝日に目を覚ます。
隣で規則正しい寝息を立てている彼を見て、珍しいと目を数回瞬かせた。
残念ながら背中を向けていてるため寝顔を拝むことは叶わないが、それでも十分な眼福になる。
引き締まった背中にしかしそれでも女性より艶かしいその綺麗なうなじをまじまじと見つめる。
そこからスッと曲線美を描く美しい首筋と柔らかそうな色をしているサラサラな髪。そしてちらりと覗かせる耳。
そう、耳。
さらにいうならその耳朶。
夢乃は彼の耳朶が大のお気に入りだったりする。
普段はなかなか触らせてくれないが、情事中、上に被さる彼の頬に触れるフリして耳朶に触れてる。
だって、
だって!!
柔らかいんだもの!
普段なら自分より先に起きている彼が今は寝ている。
じっくり堪能するチャンスである。
スッと親指と人差し指の先で彼の耳朶を軽く摘む。
ふにふに…
念願の感触に夢乃の目はきらきらと輝く。
彼の耳は決して福耳とかではないのだが、なんだろう、この癖になる柔らかさ…
わらび餅みたい!
「・・・・」
なんか、ちがうな。
マシュマロみたい!
「・・・・」
うーん、この表現は正しいのか。
グルメリポート並みの語彙力があれば…!と悔しい顔をしながらも手は触れるのをやめない。
そしてだんだん指だけでは物足りなくなってきて、いけない欲が出てきてしまう。
た、食べてみたい…
ゴクリ、と夢乃の喉が鳴る。
流石にそこまでしたら起きてしまうだろうか。
だが、しかし…
ゆっくりと音を立てずに起き上がる。
一糸纏わない姿など気にしない。
きっと、今私はすごい変態なのだろう。
それでも構わなかった。念願の夢が叶うのだ。背に腹は変えられない。
ゆっくり顔を近づける。
薄く口を開いて…
口に挟もうとした瞬間っ
「っ!?」
視界が反転し、うつ伏せになる。ぼふっ、と顔がマットレスに埋まる。
気づいた時には腕が締め上げられていた。
「痛い痛い痛い!」
「僕の寝込みを襲うとはいい度胸だな」
「セリフ!彼女に言うセリフじゃない!」
昨夜はあんな甘い夜を過ごしたというのにそんな男女が素っ裸で翌朝こんなことになると誰が思うのか。
涙目になって謝罪をすれば彼はようやく体の拘束を解いてくれた。
「いったいいつから起きてたの?」
「君が鼻息を荒くするところから」
それはいったいいつから荒かったのだろうか。でも、まぁきっとつまりは最初から起きてたということなのだろう。
「耳、なんで触らせてくれないの…?」
他は触らせてくれるのに、と言えば枕を投げられた。
さっきから彼女に対する扱いがひどい気がする。
彼の片眉は上がり、明らかに不機嫌な顔だったが、次には何やら悩みだし、首裏に手を回したと思ったら頭が垂れてしまう。そのまましばしの沈黙の後、口を開いた。
「………ょゎぃ、んだ」
小さく、小さく言った彼の声。微かに聞こえたそれは、ちらっとだがW弱いWと言ったのだろうか。
「耳、弱いの…?」
「もういいだろ」
「耳が弱いこと、恥ずかしいの?」
ピクッと未だ頭を垂れている彼がその言葉に反応する。少し耳が赤いのは気のせいだろうか。照れている彼もまた貴重だ。
下から覗くように様子を窺えば、バッと彼は顔を上げ、次には押し倒されていた。
「君がいけないんだからな」
不機嫌な、でもどこか照れている彼の顔に夢乃は思わずにやけてしまう。
新たな彼の一面を知ることができた。
怒った顔も、照れた顔も、不機嫌な顔さえも全てが愛おしい。
「全部、好き」
その言葉に彼は目を見開いたあと、次には嬉しそうに目を細めた。
降り注ぐキスを受け入れ、再び甘い空気に。
隙を突いてまた耳朶に触れようとしたらまた技を決められたなんていうまでもない。
おわり
2020.6.20