小さくなった安室くん

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「知り合いが今到着したっていうからハロの散歩がてら受け取ってくる」

「あっ、お金…」

「それを言うのはなし。分かるよね?」

「でも…」

「もし君がどうしてもお金を払うというのならあの時お世話になったお金を全て返すけど?」

うっ、と彼女は口を噤んだ。彼女の性格を考えたら絶対に受け取ったりしないだろう。

「ならせめて私も一緒に…」

ついてこようとするナノカ。あの時とは逆に自分を見上げる彼女の頭を優しく撫でる。

「靴もないし、君はここで待ってて」

撫でられた頭を恥ずかしそうに押さえ、申し訳なさそうに下がっている眉で肯くナノカに安室も困ったように眉を下げる。そんな顔をされると君を連れて行きたくなる。

「僕が…」

パッ、と彼女が顔を上げる。期待いっぱいの目で安室を見た。

「君を抱き抱えていいのなら」

「うん、ここで大人しく待ってる」

よろしくお伝えください、と潔く身を引いた彼女に安室は苦笑いを浮かべた。





「あの、降谷さん」

「なんだ」

「女性類の服一式、言われた通りフリーサイズを買ってきましたが…これはいったい何の捜査なのでしょうか」

「あー…君は知らない方がいいな」

少し考え、途端深刻そうな表情をする上司。風見は不意に頭に過ってしまった恐ろしい考えに身震いする。

降谷さん、まさか貴方がこれを…!

「風見、君が思ってることは100%違うことだから、出来れば僕をそんな目で見ないで欲しい」

この人は超能力か何か使えるのだろうか。バレている思考に風見は慌てて咳払いをして誤魔化した。

そんな風見をジト目で睨みつつも見て見ぬふりをして降谷はハロと共にその場を後にした。

帰路に着きながら降谷は考える。彼女が来て三時間弱。先ほど頭を撫でる際に前髪を掻き分け額を確認したのだが、手術帽子の痕は未だくっきりと残っていた。浮腫んでいたとしてもそろそろ消えていい筈だ。

「・・・・」

いや、まさかな。

降谷は鼻で笑いながら顔を横に振り、頭に浮かんだ一つの仮説を取り払った。





「服のサイズ、どうかな」

「うん!フリーサイズのワンピースだし余裕だよ!」

「よかった。靴の方は?」

「こっちも大丈夫そう。サボサンダルにしてくれたから楽に履ける」

「君が大丈夫ならこのまま車で日用品類を買いに行こうと思うんだけど…」

「ぜひ、よろしくお願いします!」

外の世界に少し興味があるのか彼女の表情は嬉しそうだった。

「外出する前に幾つか君にお願いしたい事があるんだけど…」

「お願いしたい事?」

「うん。僕は訳あって身分を隠してる。探偵の職業は時には相手から逆恨みされやすいから」

「え、そうなの?」

目を開き、驚いている彼女に安室はこくん、と肯く。

「だから僕と一緒に住んでいることは周りには秘密。もし僕の知り合いに会った場合は君は僕のクライアント、ということにしてもらいたいんだけど…」

「了解!任せて!」

「ありがとう。君には不自由かけるけど…」

「全然不自由なんかじゃないよ!十分よくしてもらってる。それにここは透くんの世界。君の生活に支障が出ないようにしてほしいな」

「ありがとう」

彼女の頭に触れる。少し気恥ずかしそうに肩を上げ首をしまう彼女を安室は愛おしそうに見つめたーー…。





ナノカは流れる景色に目を向ける。ここが彼の住んでいる米花町。この世界では東都タワーや、トロピカルランドなどが有名らしい。ナノカの世界と殆ど変わらないように見えるのに時々目にする建物の名前が微妙に違っていたりする。興味津々に車の窓から街中を見上げている自分は完全に御上りさんだ。

ちらりと運転席を見る。あの小さかった彼が車を運転している。いつも自分がその席にいたから助手席に座るのは少々違和感だ。

W透くんは車好き?W

W好きです。でもどちらかといえば運転する方が…W

以前彼とした会話を思い出し、思わず苦い笑みが溢れる。

なるほど。今思えばだが、ちょいちょい可笑しなことを言っていたわけだ。

いやそれよりも、だ。もっと重大な問題が…

「疲れた?」

「え?」

「米花デパート着いたけど、少し休んでからにする?」

その言葉に慌てて首を横に振り、大丈夫だと笑顔を作る。いかんいかん、余計な心配を掛けさせるところだった。

「倒れた僕がいうのもなんだけど、具合が悪かったらすぐに言って」

「ありがとう。でも本当に大丈夫だから」

「ならいいけど…」

まだ疑っていた彼だったが、笑うナノカにしぶしぶシートベルトを外す。そして財布ごと渡してくる彼にナノカはギョッとする。

「好きなだけ使っていいから」

「そんな財布ごとなんて…!」

「僕は僕でちゃんと持ってるから、地下の食材売り場で僕が買い物している間に君も必要なものを」

手首を掴まれ、ぽんっ、と無理矢理手の平に置かれる財布。開いた口が塞がらなかった。

逆に使いづらいよ、透さん

「一緒に服とか選びたかったけど、僕がいて困ることもあるでしょう?」

車内で誰も聞いてなどいないのに内緒話でもするかのように彼はスッと唇をナノカの耳に寄せた。

「下着…とか」

ボッ、と顔が熱くなる。耳を押さえ、信じられない、といった顔で彼を見る。したり顔の彼がそこにいた。インナーって言えばいいのに絶対ワザとだ。

「有り難く…遣わせて、貰います!」

漸く大人しく財布を受け取ったナノカに彼は嬉しそうに頷く。こうして掌の上で転がされている事実に彼女が気づくことはなかった。



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