04.17.


◆小話(安室夢) [追記]

「え?引っ越した?」

「はい。実は…」

働いてた会社が潰れ、その日家に帰ったら住んでたアパートが全焼していたという1日にして全て失ったことを伝えると彼の表情がだんだんと険しくなっていく。

「それは災難でしたね。それで今はどちらに?」

「実は途方に暮れてたところにコナン君と遭遇して」

「コナン君に?」

「はい。連続放火魔が関わっていたようで、それで様子を見に来たみたいです」

「彼はそういう事件に首を突っ込みたがりますからねぇ」

「それで事情を話したら住む場所を提供してくれて」

彼の眉間のシワが濃くなったのがわかった。

「どちらに?」

いつもの彼の声より少し低めに出されたその言葉は思わず躊躇してしまうほど。

「く、工藤邸に…」

「……なんて?」

「えっと、その…あ、阿笠博士の家の隣の…」

ワナワナと口元を抑える安室に首を傾げる。何やら先程から様子が…

「なんで…」

なんで。そんなことを言われましても。

「他に行くところが…」

「僕の家に住めばいいでしょう!」

ダンっと強く叩かれるシンク。加えて衝撃波並みの言葉に思わず体が少しのけぞる。それぐらいの勢いと破壊力があり体は消し飛びそうになってしまった。

「そ、れはいったいどういう…」

なんとか絞り出してみる。前々から彼とは結構いい感じなのでは?なんて思うことは度々あったが、どこか決め手に欠けるというか、こちらがぐいぐい行っても一線引かれてしまうところがあってなかなか踏み込まずにいた。

しかし今の彼の反応からしてこれは互いの気持ちを知るチャンスなのではと突き詰める。

けれど肝心の彼はというと固まったままだ。まるで自分の口から出た言葉が信じられないとでもいうように…。

「今のは…告白と捉えてもいい…です、か?」

これで勘違いだったら恥ずかしくてそれこそ本当に体が消し飛んでしまう。もう二度とポアロに足を踏み入れることはないだろう。

「………」

「………」

続く沈黙。カチカチと掛時計の秒針がヤケに重く感じてしまう。

「か、かえり…ます」

とうとう耐えきれず席を立つ。恋愛はタイミングだ。どんなに好きでも相手にその気がなければ意味がない。

安室さんの…意気地なし

俯いて、泣きそうになる顔を隠しながらお代をテーブルの上に置く。職を失い、家も失い、意中の人まで失うなんて。辛すぎる。

「待って」

ドアノブに掛けていた手を一回り大きな手が重なる。驚いて振り向くと少し悲しそうな…でもどこか怒っているような顔の彼がいた。

「そう…捉えていただいても構いません」

"構いません"…なんて。なんてずるい言い方なんだろう。好きって言って欲しいのに。

「卑怯な言い方をしてすみません」

握る手に力が入ったのがわかった。彼の頬に吸い寄せられた手は熱が籠り、こちらの顔まで赤くさせる。

「荷物は…どうにかするから」

「ど、どうにかするからって…」

「あと少しで上がりだから、そしたら一緒に帰ろう」

僕の家に。

そう続けられた言葉に、怒りもあるのに絆され掛けてる自分がいる。あぁ、きっとこれは引っかかってはいけない男に引っかかってしまった。キープってやつでしょ?そんな酷い男なんてこっちから願い下げだ。そう言いたいのに、その悲しそうに細められた瞳に気づけば首肯いていた。

にっこり微笑んだ男に、もう逃げられないと心の中で思ったのだった。

おわり

<小話> 2023/05/28(Sun) 21:50 コメント(0)

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