東方妖遊記小説

□八
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「お前が炎招戈の使い手か――。よくやった。名を何と申す?」



やがて近付いて来た陽甲の一行に、晄たちは慌てて跪き叩頭する。
春陽も軽く会釈をすませると利條の傍らへ歩んだ。
「ご苦労さまでした」と、微笑んだ利條に春陽は目元をゆるました。



「晄と申します」
「晄?」



聞いたことのある名に陽甲は怪訝な顔をして振り返った。



「この少年、確か……」
「はい。炎招戈の使い手の検分で気を失った大男に付き添い、私が名を尋ねた少年でございます」



大男とは昌のことだろう。
彼が気を失って目が覚めるまで、春陽は晄とともに他愛もない話をしていたが特別な印象は別段感じなかった。
おそらく利條には何かが視えていたのだろう。
力のない春陽には視ることのできない、清と濁が渦巻いた光を――。
晄の周りにある光が何に由来するものなのか利條は量りかねていた。



「そちは、この少年の未来を占ておったのか?」
「いいえ、この少年、なぜか占術には現れませんでした」



炎招戈の使い手も占術には現れなかった。
それはなぜなのか、利條は何かに邪魔をされていたからではないかと考える。



「ただ、炎招戈の未来に――」



では焦点を変えてみればどうなるか。
利條が視たものはまさに現在にあたる未来だった。

化蛇に視線を移して口を開きかけたところで、横たわっていた化蛇が身じろぎしたのは突然だった。



「死んではおらなんだか――!」



慄く陽甲と騒ぎ出す周囲に、春陽は瞬時に腰にある剣へ手を持っていく。
けれど化蛇はそれっきり動こうとはせず、ただ静かに巨大な体を横たわらせているだけだった。
利條に軽く手で制されたために春陽は剣から手を引く。
「気を失っていただけのようでございます」と淡々と述べる利條は陽甲とは違い平然としているようだった。



「で、でわ、晄とやら。止めを刺せ」
「え――!?」
「こやつは洪水を起こす妖だ。生かしておけば、いつまた黄河が氾濫するかわからぬ。
 こやつが大人しくしているうちに早う殺してしまえ」



驚いて顔を上げた晄に陽甲はそう言ってのけた。

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